最近、Coldplayが来日したというニュースを見て、わたしはある舞台を観に行ったときのことを思い出した。その舞台で、ColdplayのParadiseという曲が印象的に使われていたのだ。
今の時代、検索すればすぐ出てくるもので、2020.10.24のことだった。
少し特殊なお店で、レストランであり劇場でもある。わたしがその日行ったのは、食事の後にお芝居を観るというスタイルのものだった。
役者さんたちは店内あらゆるところから登場し、客のテーブルのあいだを歩き、走り、立ち止まり、たまには座ったりして、演技をする。あれほど近くで演技を観たことはない。
わたしはこれまでもそのお店で同じように観劇をしたことがあった。基本的に相席であり、わたしはいつもひとりで行くので誰と喋るわけでもない。
その日に通された席はいちばん端っこだった。そしてテーブルのわたし以外の方々は互いに知人のようで挨拶をしたりしていた。そこでなんとなく気がついたのだが、わたし以外は関係者だったのだ。
なぜこのテーブルなんだと思いながらもわたしはあまり役者さんに詳しくもないので特に何も気にせず食事をして開演を待った。
ナチスをテーマにした舞台だった。
出ている役者全員が彼のようで、全員が彼ではないような、そんな舞台だった。Paradiseのある音のところで役者たちが一斉にあの敬礼をするようなOP演出だったように思う。
そこがすごく、印象に残っていた。
そして同じテーブルで熱心に観ていた関係者のひとりのことも、とても印象に残っていた。たぶん役者さんなんだろうなあと思っていたのだが、その舞台のWキャストのひとりだった。わたしが観た次の公演から、その方が舞台に立つという日だったのだ。
もうひとりの自分を観ている気分だったんだろうか、というわたしは経験し得ない気持ちを想像した。
そして客席から彼が観たもうひとりの彼、Wキャストのうち、わたしが観劇した日のキャストの方。その方の演技を観たのはこれが最後になった。
わたしが観たのもそうだし、彼自身の最期の舞台もこれだった。
それを思い出しただけの話。