人生初の富山に上陸した。関西に住んでいる頃よりも、東京からだと北陸新幹線でスイッと行きやすい。能登半島地震後の復興に向けて微力ながらも応援消費するつもりもあった。何よりもホタルイカが好きなので、ぜひ一度富山は訪れたいと思っていた。たまたま仲の良い友人が富山に転勤になり、きっかけができたのも大きい。なかなか普段足を踏み入れない土地も、友人がいるという理由だけで一気にご近所感覚になる。47都道府県に47人、世界196か国に196人、合計243人の友達がほしい。そうすれば災害も戦争も、どれも他人事にはならないだろう。
富山駅は大きく、美しかった。そして広々とした駅前を走るトラム(路面電車)に感動した。ウィーンやプラハにはトラムが多く、めちゃくちゃ便利でよく使っていたため、なんだか懐かしい気持ちになった。この時点で富山がすでに大好きだ。
ここの日記にも以前からちょくちょく書いているが、私は生牡蠣が好きすぎる。縄文時代から人間は牡蠣を食べて、そして貝塚に捨てていた。牡蠣と人類の繋がりは深い。1個の牡蠣が1日にろ過する海水は約400リットルといわれており、海水も綺麗にする。なんて素敵ないきもの…私はオイスター教に入信しているので、富山でも牡蠣が食べたい。(ホタルイカはどうした)富山の入善町というところでは、水深384mから汲み上げている海洋深層水でカキの蓄養・浄化を行っているらしい。これはオイスター教の信者としてはマストでしょ。友人と共に訪れた牡蠣レストランで、牡蠣の「生・焼き・蒸し・フライ・炊き込みご飯」がまるまるセットになったハッピーセットを注文。牡蠣三昧お楽しみセット。こんなにさまざまな調理法でさらにおいしくなる牡蠣、底の知れぬ魅力。牡蠣の話はそろそろここまでにしよう。このままではホタルイカの話ができない。
そのあと富山湾沿いをドライブした。お天気もよく海も凪いでいて、友人がとても喜んでいた。北陸の冬は天気が悪い日が多く、日照時間も少ないそうで、こんなに晴れている日は貴重らしい。晴れ女としての役目を果たすことができて私も大満足だ。
ドライブをしていると、ファスナーで有名なYKKの工場を見つけたり、教科書で習った「米騒動」の発祥地を見つけた。最近の物価上昇で苦しい生活を当時に重ねてしまう。「白菜騒動」を今こそ起こすべきではないのか。(余談だが先日近所のスーパーで1/6の白菜が300円近くした。一玉1800円てアホである)
そして突拍子もなくチューリップ畑が現れて驚いて車を止めた。
赤と黄色が規則正しく植えられている。しかし、特になんにもない、ただの田んぼだ。観光地ではない。水田裏作にチューリップ。ファンシーすぎる。富山はチューリップの球根出荷日本一らしい。富山すごい。なんと寄り道しがいがあるんだろう、富山。
どこかで風呂に入って帰ろうという友人の誘いで、Googleマップで調べるとアホほどヒットする。2〜3kmくらい進めば日帰り温泉や銭湯、公衆浴場がわんさか出てくる。実は富山は銭湯数が日本一らしい(厳密に言うと人口10万人あたりの数)
知らなかった!友人曰く、昔々、富山出身の人々が江戸で銭湯を始めたらしい。銭湯大好きな私は大歓喜した。いくつかピックアップして寄ってみたが、中にはあまりの昭和感に入るのをチキってしまった銭湯まである。今更だがチャレンジすべきだったかもしれない。
しかし、入り口に無造作に置かれたこの健康器具がどういう意味をなすのか全くわからず、周りに人もおらず、暖簾をくぐったが最後、帰れないのではないかという恐怖に負けてここは断念してしまった。そのあと私たちが入った銭湯は、地元のお年寄りたちで賑わっており、とてもよかった。その土地土地で人々の生活があり、営みがある。高齢化や過疎化はどこも課題だろうが、いまだに残る人々のいとなみに思いを馳せながら夕方に入る風呂は最高である。
その後スーパーで爆湧き(記録的な豊漁)により価格崩壊しているホタルイカを買った。東京ではホタルイカのボイルは売っていても、刺身は売っていないためどちらも買った。アクティブな友人は先日、夜の海に入りホタルイカ掬いをしたそうだ。友人曰く、ホタルイカが爆湧きすると同時にどこからか人間たちも爆湧きしてきて、みんな一心不乱にホタルイカを捕まえていたらしい。夜中の海にヒト、爆湧き。それはちょっと怖い。
友人の家で、買った今朝獲れのホタルイカを調理し食べたが、もうプリップリで新鮮そのもの。ものすごく美味しい。なんだこれ。そらこんなに美味しいなら捕まえようとする人も湧くわ。アヒージョにして食べたが、肝の濃厚さとオリーブオイルが最高のマリアージュだ。友人が作ってくれたミョウガの千切りに明太子を和えたおつまみも美味しくて、これでは痛風まっしぐらである。それでもいい。来週健康診断だけど医者から怒られてもいい。それだけ、美味しかった。
お酒と富山の幸に、友人との話にも花が咲く。懐かしい昔話や最近あったことなど話が止まらず、箸も止まらず、酒も止まらない。最近聞いたラジオの話、観た映画やドラマの話、読んだ漫画の話。お気に入りのレシピや動物の話。インプットした情報を他人に対してアウトプットする。ただの情報が、自分の身となり血となっていくこの過程が私は大好きだ。そしてその過程に付き合ってくれる友人がいてくれて本当によかった。
気がつけば布団の中でもずっと私は話し続けていたようで、朝起きると喉がちょっと掠れていた。
次の日は氷見漁港へ行き、海鮮丼を食べた。調子に乗って一番高いやつを頼んだら、めくってもめくっても魚が出てくるとんでもない海鮮丼だった。氷見は藤子不二雄A先生の出身地らしく、忍者ハットリくんや笑ゥせぇるすまんなどのキャラが街中を彩る。おいおい富山、めくってもめくっても魅力がどんどん出てくるやんけ。
また海岸線をドライブし、能登半島国定公園の雨晴海岸に寄った。わが国最古の歌集「万葉集」の代表的歌人である大伴家持の歌にも読まれた場所で古典オタクは大歓喜である。
浜辺で友人とかわいい貝殻を集めたり、ヤドカリを観察したりとても良い時間だった。30過ぎてもこんなに楽しめる海。偉大。
ヤドカリは常に住宅難らしく、住みやすい貝殻を常に探し求めているらしい。名前の通り「宿」を「借り」ている、永住できる持ち家ではないのだ。難儀な生き物である。なんだか現代人と重ねてしまい愛おしくなった。
今はスマホがあるのですぐWikipediaでヤドカリの生態について調べることができる。子供の頃は図鑑を開かねばならなかった。そう思うと、グンっと学びやすくなったんだからもっと勉強したくなる。できることなら働かずに勉強していたい欲がむっくりと顔を出す。しかし、働かなければこんなに美味しい牡蠣やホタルイカや海鮮丼を食べることができない。くぅ。世知辛い。
帰りに寄った道の駅で、白えびの刺身と白エビの出汁を買った。旅は帰った後も続く。楽しみはできるだけ長く続いたほうがいい。今度はおわら風の盆の時期に訪れたいよ、富山。大好きになってしまった。ありがとう、富山。