この物語の中には、あなたが一人で傷付いていないか 確認しにきてくれる誰かがいる。
そのことを忘れないでいてくれ。

あまり知られていないことだが、おれは専業の商業作家だ。
純文学とライトノベルの狭間、いわゆる一般文芸カテゴリーの駆け出しの新人。2024年に公募文学賞「第11回 新潮ミステリー大賞」で大賞を獲り、翌年 単行本『リストランテ・ヴァンピーリ』(新潮社) の刊行をもってデビューした。
そしてこの度 2026/6/17 (水) (所によっては 6/18 (木)) 発売の季刊誌「小説トリッパー 2026年夏号」(朝日新聞出版) に、新作長編ミステリー小説を一挙掲載してもらう。
タイトルは「ウルトラマリン」。
かつての国民的アイドル俳優ユニットが、栄光の舞台から転落して10年。大人になった彼女らの一員の結婚式当日に、別の元メンバーが自分の生前葬をぶつけようとしている。その舞台装花を任されたのは、横浜の潰れかけた花屋だった。
…そういう話だ。

能書きは後にして、まずは本編のあらすじを見ていってくれるかい? ネタバレはしないから安心して読んでほしい。
≪「ウルトラマリン」あらすじ≫
2025年の横浜。歓楽街の隅のフラワーショップ〈ラムダ〉で働く雑務担当の安藤 (あんどう) は、話術と顔立ちにだけ恵まれ 商売性に難のある店長・達也 (たつや) と、圧倒的なセンスを持ちながら対人能力が壊滅的な先輩フローリスト・朔 (さく) の2人に振り回されて、クリスマスの繁忙期を前に 直面する経営問題に頭を悩ませていた。
しかも、男性たる朔は いつも華やかな化粧をして フリルに溢れた女性風の出で立ちで店へ出勤してくる。それは 彼の憧れであり 10年前に大流行した魔法少女ものの実写ドラマ【聖海守護隊〈マーメイズ〉】(せいかいしゅごたい〈マーメイズ〉) の主演・波瀬うらら (なみせうらら) を模倣した姿だった。
〈マーメイズ〉のメインキャストの3人は、ドラマの世界を飛び出して 現実でもアイドル歌手ユニットとして人気を博していたが、そのメンバーであり 波瀬うららの実姉・波瀬しおね (なみせしおね) の急逝によってグループ活動を中止していた。異性交遊やアルコール・薬物乱用が原因の自殺だといわれているが、真相はわからない。
そして彼女の遺体発見現場に残る、謎の青い花。
事件から10年が経った2025年の11月の夜、〈マーメイズ〉のもう一人の出演者である弥生八夜 (やよいやよ) が 同ドラマのプロデューサー・長曾我部 (ちょうそかべ) との結婚を発表、翌月に婚礼儀式を挙げると報じられた。
彼女は全国規模の生花チェーン店〈花菱善華〉(はなびしぜんか) のイメージタレントを務めており、挙式当日の会場装花には 有名華道家である神谷・フロレンティーン・権三郎 (かみや・フロレンティーン・ごんざぶろう) を起用するのだという。神谷は花卉 (かき) 業界のカリスマで、朔に対抗意識を燃やすライバルだった。
ちょうどその日、〈ラムダ〉には波瀬うららが大規模装花の相談をしに訪れていた。曰く、「弥生八夜と長曾我部プロデューサーの結婚式の裏で、同日同時刻に自分の生前葬を開催したい」。
清廉な元アイドル・波瀬うららからの意図不明な依頼に困惑する〈ラムダ〉の従業員たちに、その姉の波瀬しおねが「死の直前、周囲に隠して長曾我部プロデューサーと結婚していた」という秘密が告げられる。
対極的な2組の花屋に持ちかけられた、結婚式と生前葬。10年前に散った彼女たちの花――波瀬しおねが奪い去った心の行方は…?
…と、長く付き合ってくれてありがとう。
ざっくりと、[しょぼい花屋] と [でかい花屋] が [10年前に売れていたアイドル俳優] のために結婚式や葬式の装花を頑張るんだな、くらいの認識でいれば十分だ。
(この記事の最後、【おまけ】コーナーでは ネタバレなしの登場人物紹介も載せているから、興味があったら遊びにこられたい)
おれは、書きたくないことを書いた。
向き合いたくないと心から思っていた、というほうが正確かもしれない。
今作は、明確にセクシュアリティとアイデンティティをテーマにしている。
毎年6月は「プライド月間」。LGBTQ+のコミュニティを祝福し、公正で平等な社会を目指すために設けられた啓発期間だ。
自らノンバイナリー (男女に限定されない性別) であると明かしているおれの立場からしても、相当に思うところがある。
本作「ウルトラマリン」を この時期に発表することにも、おれはとても拘った。
検討と各所との調整を重ね、物理的にも多大なる犠牲を払った上で ようやく実現したことだ。その内訳については、いつか公開が許されればいいのだけれど、いまは語ることができない。
とにかく、おれたちの新作が来る。
現代社会的なリアルエンタメ、コメディミステリー、新しい職業小説として、ジャンルを気にせず感じるままに読んでもらって構わない。読書は自由だ。王冠は本を開くあなたの頭の上にある。
「ウルトラマリン」が 雑誌、それも年に4回しか発刊されない季刊誌「小説トリッパー 2026年夏号」に、一挙313ページ (400字詰め原稿用紙換算) の特大ボリュームで載る、ということだけを覚えて帰ってくれ。
当該の本は、全国の書店・ネット通販などから 1,430円 (税込) で予約・購入することができる。「ウルトラマリン」のような読み切り作品だけでなく、連載・エッセイなど 他にも話題を攫う作品が満載になった一冊だ。
小説家にとって単行本がレコードディスクだとすれば、雑誌掲載はライブコンサートに等しい。いま、たったいまこの瞬間に載せたい話を、オートチューンなしにリアルタイム・マイク一本でお届けする。本番一発撮り (裏では100万回の推敲と校正を経ているが!) のワンテイクだ。
本を開けば世界がある。スリルが、ロマンスが、謎解きの冒険があなたを求めている。
そして、もしも 今夜、あなたが一人で辛い思いをしているのならば、あともう少しだけ信じてくれはしないだろうか。必ず助けにいくから、どうか人通りの多い安全な所にいて、できれば水分や食べられるものを取って。
届くのなら、そこにある1冊の本に、手を。
あとは任せてくれ。
孤独と困難に沈む現実への対抗声明として、おれはこの物語を作った。
そういうことだから、ぜひとも「小説トリッパー 2026年夏号」を手に取ってみてほしい。
おれはミステリー作家・二礼樹 (にれ いつき)。あなたに向けて 新作長編小説「ウルトラマリン」を書いた。
(※2026/6/10 (水) 時点:公式サイトトップは最新号でない可能性があります)
皆からのコメントも待っている。一緒に期待や感想を語り明かせたら、何よりも嬉しい。
彼らにもよろしく伝えておくから、じゃあ、また雑誌の中で会おう!
【おまけ】
せっかくなので 以下で主要な登場人物も紹介しておくが、覚えておく必要は まったくない。
作中には、花言葉の一つにだって毎回解説を入れてあるので、事前知識は一切不要。ここでは ただのサービスとして載せる。
≪「ウルトラマリン」登場人物≫
【フラワーショップ〈ラムダ〉】
横浜伊勢佐木町界隈、雑居ビルの1~2階テナントにへばりつく零細生花店。
隣はパチンコ屋の景品交換所。
限界の資金繰りとトラブルによって、度々大家から退去を迫られている。
No.1:[雨宮 朔] (あまみや さく)
・〈ラムダ〉のトップフローリストの男。25歳。
・元アイドル俳優の波瀬うららに強い憧れを持ち、そのキュート&フェミニンな衣装を模倣した女性装で、完璧なメイクを決めて店頭に立つ。
・ただし性格は頑固で偏屈な職人タイプ。
・実力や才能は圧倒的で指名も多いが、ありえない傍若無人さで客や取引先をも追い返し、店のレビューサイトには散々な悪口を書かれている。
・生家である宮城の山奥の寺院の和尚 (大地主) からも目の敵にされる嫌われよう。
・唯一の友として黄色いカナリアの「檸檬」(れもん) を飼育中。
No.2:[達也] (たつや)
・〈ラムダ〉の店長。31歳。
・年中アロハシャツを着て夏用の香水を振り撒いている陽気なBADガイ。
・詐欺師めいた軽薄さと悪運頼りでここまでやってきた。
・騙し討ちで店に引き入れた安藤の仕事ぶりを案外気に入っており、幼馴染の朔へのリスペクトも並大抵ではない。
No.3:[安藤] (あんどう)
・〈ラムダ〉勤務歴2年、27歳の勤勉なアシスタント。
・…と見せかけて、この男も一筋縄ではいかない。
・首にはお菓子メーカーのタトゥー、半分刈り上げた髪は緑色、ファミレスの青汁ジュースを無糖炭酸水で割って飲む。
・以前はファッションスタイリストを目指していた。
・両親がネズミ講に嵌められて夜逃げしたために 服飾専門学校の中退を余儀なくされた過去が垣間見える。
・押しには弱いが逃げ足も速い。
【聖海守護隊〈マーメイズ〉】(せいかいしゅごたい〈マーメイズ〉)
10年前に大流行した魔法少女ジャンルの実写ドラマ、及び 作中から派生した3人組のアイドル歌手ユニット。コンセプトモチーフは人魚。
凄まじい話題性の後押しで テレビ番組やCM出演、コンサートツアーにグッズ展開と記録的なヒットを飛ばすが、メンバーの1人の急死をきっかけに人気絶頂のままに空中分解した。
No.4:[波瀬 うらら] (なみせ うらら)
・〈マーメイズ〉の青色担当の29歳。
・水色に染めた長い髪がトレードマーク。意外と卑怯な戦略家。
・元同僚であった弥生八夜が長曾我部プロデューサーと結婚式を挙げるという話を聞き、同日に自身の生前葬をバッティングして開催させることを決意。
・会場に置く1,000万円分もの装花を任せられる花屋として、雨宮朔を名指しして〈ラムダ〉へ依頼に訪れる。
No.5:[波瀬 しおね] (なみせ しおね)
・〈マーメイズ〉の白色担当。
・白金色の三つ編みのお下げが目印の 波瀬うららの実姉。3つ上で享年22歳。
・我儘で子供っぽく、薬物乱用や異性関係に奔放だという噂が絶えない。
・本当にそれだけの女性だっただろうか?
・多忙を極める〈マーメイズ〉の活動スケジュールをキャンセルした梅雨の午後、自宅マンションの高層階から転落して命を落とした。
・死の直前、長曾我部プロデューサーと極秘で入籍していたことが、10年後の波瀬うららによって暴露される。
No.6:[弥生 八夜] (やよい やよ)
・〈マーメイズ〉の紫色担当。
・ゴスロリファッションに身を包むツインテールの29歳。
・ドラマ内では悪役をこなし、クールな性格も相まって 熱狂的なファンからは「八夜様」と崇められている。
・身内のコネも使い、大規模生花チェーン店〈花菱善華〉のイメージタレントを務める。
・「生涯独身」を宣言していたが、波瀬しおねの死後10年目にして 突如として長曾我部プロデューサーとの結婚を発表。同年12月23日に マスコミに向けた中継を入れた大規模な結婚式を挙げるという。
〈花菱善華〉(はなびしぜんか)
天下の大規模生花店。駅ビルやショッピングモール内での店頭販売やオンラインギフトサービスに留まらず、冠婚葬祭・法人向けのスタンドレンタルも行う業界シェアNo.1のチェーン花屋。
厳しいノルマや自爆営業が横行しており、現場では過労死まで発生しているという話だが…?
No.7:[神谷・フロレンティーン・権三郎] (かみや・フロレンティーン・ごんざぶろう)
・作中随一の迷惑で危険な男。
・名のある華道家一族の三男で、31歳。
・花やデザインに関する高い技術と知識を持ちながら、強烈な関西弁と官能的な赤い女物の浴衣をアイコンとしており「和製ドラァグクイーン」と評されている。
・タレント活動をする傍ら、フラワーアーティストとして〈花菱善華〉に専属。
・10年に亘って片思いを寄せる相手 ( = 元〈マーメイズ〉の弥生八夜) から、彼女と長曾我部プロデューサーとの結婚式の装花制作を任されてしまい、傷心中。
・「色物枠」のお株を奪う朔の存在が気になって仕方がなく、〈ラムダ〉に対抗意識を燃やして、行く先々で騒動を起こす。
No.8:[弥生] (やよい)
・元〈マーメイズ〉の弥生八夜の叔父で、〈花菱善華〉の営業マン。
・姪である弥生八夜に関する 目に余る身内贔屓と職権乱用により、「産業スパイなのでは?」という疑惑を受けて左遷された挙句、神谷・フロレンティーン・権三郎のマネージャー職に降格した。
【その他】
愉快な仲間たち…どころか、不愉快な敵 (?) かもしれない皆様方。
No.9:[長曾我部プロデューサー] (ちょうそかべプロデューサー)
・「聖海守護隊〈マーメイズ〉」の仕掛け人でヒットメーカーの男。
・10年前に素人同然だった波瀬うらら / しおね をスターの原石として発掘し、最近は華道家の神谷・フロレンティーン・権三郎のプロデュースも手掛けている。
・冷酷非情でモラルハラスメント気質に見えるよな。
・10年前、死の間際に交際 (結婚も?) していた波瀬しおねにさえ情は見せない。
・自身も余命付きの大病を患いつつ、けれど もうすぐ弥生八夜と結婚式を挙げるらしい。
No.10:[東雲] (しののめ)
・〈ラムダ〉の安藤の高校時代の先輩で、現・地上げ屋。
・朔の実家である寺院の和尚 (大地主) の意向を受け、ありとあらゆる手を使って〈ラムダ〉の営業を妨害してくる。
・〈マーメイズ〉の全盛期には、弥生八夜の握手会 (裏ルート) に70万円を支払ってまで参加するくらいの「八夜様」の大ファンだった。
No.11:[波瀬うらら / しおね の祖母]
・波瀬しおね / うらら を育児放棄した未婚の実母に代わり、保護者として彼女たちを育ててきた75歳。
・「アイドルなんてけしからん」という厳格な主義。
・現在は介護施設に入所中。
No.12:[カリベ]
・近くのパチンコ屋で勝って上機嫌な酔客。
・〈ラムダ〉に押し入り 高額なディスプレイ壺を破壊しておいて、タダで帰れるはずがない。
No.13:[琥珀] (コハク)
・元ファッションモデルという経歴を持つ一流スタイリストの女性。
・弟子として従えていた安藤を、「ある事件」で庇いきれずに破門する。
No.14:[バンビ]
・琥珀の指示で 安藤がフィッティングを任せられたランウェイモデルの少女。
・ステージ裏のケータリング食は全部食べる。
気になる誰かは見つかったかな?
本文には、読み終えてから最初のページに戻りたくなるような仕掛けもあるから、そちらも楽しみに予想してみてくれ。
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