1人で楽しいクッキング (マッハ・クラフトジンジャエール編)

洗われるたこ
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公開:2025/8/30

眠れない男がいた。

男は、毎日沢山の睡眠薬を服用していたがために、医者から酒を飲むことを禁じられていた。酒が飲めないとつまらない。男は決してパーティーの場で味気ない烏龍茶なんて飲みたくはなかった。

ある晩、男はカレー屋に呼び出された。名前も知らないスパイスを100万種類も使っているような、非常に都会的な洒落た店だった。男は退屈に五穀米のポークカレーライスとジンジャエールを注文する。

しばらくすると、アーバン・スタイルな髭を蓄えた店主が やけに細くて背の高いグラスを持ってきて 誇らしげに微笑み低く宣言した。「当店自慢のクラフトジンジャエールでございます」

アーバン・店主が自慢するジンジャエールは黄金色に輝いていた。グラスの底にはふわふわした磨りおろしの生姜が沈み、嗅いだこともないようなレモンとスパイスの香りが 炭酸の泡が弾けると同時に乾いた空間へ広がっていく。

一口飲んでみると、舌を痺れさせるような甘みと酸味、捻くれ者の大人のためだけにわざと作られたかのような苦味が流れ込んでくる。アーバン・スタイルの風が吹き抜け、踊り歌いたくなるような酩酊感が身体の内側から溢れだした。

男は思わず店主に尋ねる。「どんなスパイスを使っているのですか」

「特別なものは何も入ってはいませんよ。生姜にレモン、砂糖、シナモンにブラックペッパー、そして隠し味に 砕いたゾルピデム錠を10㎎」

その夜、男は大変心地の良い眠りについた。


…ということで、今夜はアーバン・カレーショップ特製のクラフトジンジャエールのレシピを伝授しよう。

【材料:出来上がり分量 - 約1L】

★ マーク:必須アイテム

※カレー屋の1営業日分くらい大量にできてしまうので、「数杯だけ飲みたいな」という気分のときには1/3~1/4量で作ることを推奨する

★ 新生姜:1個 (350~400gくらい)

★ レモン:2個 (300gくらい)

★ 三温糖:700g

★ 水:600ml

・シナモン (粉末):1振り / なくてもいい

・ブラックペッパー (粉末):1振り / なくてもいい

・氷:好きなだけ

★ 炭酸水:好きなだけ

[大まかな手順]

材料を量ってカットする → 全部鍋に入れて煮ればシロップになる → 炭酸水で割って出来上がり

まずは生姜とレモンをよく洗ってくれ。

今回はたまたま辛さのマイルドな新生姜を入手することができたが、普通の生姜しかないときは使う重さを (新生姜の) 70%くらいに調節するとちょうどいいと思う。

レモンは皮ごと入れるから ワックスや農薬不使用のものが望ましい。

で、とにかく刻む。これが一番大変な作業だった。切り終えさえすれば後は簡単。

生姜は 断面積が多いほうが煮出すときに効率的かと思ってマッチ棒状にしてみたが、より強く風味を感じたいなら一部を磨りおろしに、逆に辛さを抑えたいときはスライスに留めることをお勧めする。

レモンは後で絞るので半分にカット。

ジンジャエールらしい赤っぽいムードを演出する三温糖は 意外とどこのスーパーマーケットでも売っている。ストロングな甘さの白砂糖で代用するなら これもややグラム数を控えたほうがよさそうだ。

700g。すげー量。砂場か?

そうしたら全部混ぜ合わせて、水600mlを加える。

このときレモンを絞っておいてほしい。くし切りにしたって構わないが、あまり細かいと最後に取り出すときに面倒だ。ハーフカットした断面に丸い大きめのスプーンを入れてレモンのほうを回転させると 楽に無駄なく果汁を得られる。残った皮も一緒に煮込みます。

鍋に all in。あればシナモンと黒胡椒を好きなだけ。本当ならシナモンはスティックタイプ、ブラックペッパーはホールを数粒、というのが望ましいが、このためだけにわざわざ揃えなくても大丈夫だろう。一期一会、臨機応変にあるもので挑んでいけ。

中火にかけて、沸騰したら火を弱める。灰汁が浮いていればこのとき取り去って厳かに別れを告げること。

沸騰から10分ほどで…

…水分が出てきて、こんな風にたけのこ入り中華スープとしか思えない見た目になるから、レモンの皮を回収。

味見をするならいまが唯一のチャンスだ。引き上げられるサイズのスパイスを入れた人もこの辺りで取り出すべし。

原液となるシロップはこれで完成。

アルコールで殺菌したガラス瓶に入れると、なにか怪しげな民族秘伝の酒みたいなビジュアルになる。

清潔に保ち冷蔵庫に入れておけば2~3週間は日持ちしそうだ、と睨んでいるものの、おれは食品衛生的なことについては完全な素人であるので、各自適切に判断されたい。

炭酸水も好みが分かれるところだけれど、ウィルキンソン (無糖・ノンフレーバータイプ) が強炭酸でぱちぱちと弾けて楽しい感じになる。上品に仕上げたければペリエでも開けてくれ。

グラスにシロップを大匙3ほど入れて、氷、そして炭酸水を静かに注げば…

ジンジャエールの完成!

調理時間はおよそ30分。正に手作りを売りにしているクラフト屋に引けを取らないクオリティというか、爆速&勘で作った割には素晴らしく尖った出来栄えだ。それでいて "ジンジャエール" と聞いて期待するポイントは全て押さえられている。自画自賛になるけれど、とても美味しい飲み物だ。

次回また作るなら、ちょっとだけ磨りおろし生姜を増やし、砂糖の分量を減らそうかな、というところ。

アーバン・カレーショップの店主も思わず笑顔になってしまう抜群のゴールデンドリンクは、特別な夏の終わりにうってつけの一杯となること間違いなしだろう。隠し味のゾルピデムは別添えにしておくから、まあ、必要な人だけ飲んでいってくれれば十分だ。

それじゃあ、皆様、スパイシーな 良い夢を。

@octopus
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