某日某所。
いま、青いスーツに赤いシャツというありえない格好でうろついている。ドラキュラ伯爵か?
(Blueskyより)
公に書いていいかどうかの許可を取っていないので、具体的に誰がいてどういう様子だった、みたいな話は控えておくが、おれはミステリー業界の大規模な新年会に招待してもらい、参加してきた。写真はない。
以下は眠れないおれの見た夢だとでも思っていてほしい。
単行本の発売を控えているという背景もあり、会場展示用の直筆ポップを作ってみては、ということだったので、散々ごね回し かなり渋りながら (おれは字が汚く致命的に絵心を欠いている) 出版社に顔を出す。
色々な人に泣き付き、装幀の方にまで来てもらってなんとかコメントとイラストをかいた。おれにサインはないので楷書の署名だ。
そのまま宣伝用のビラやら冊子やらを携えて会場へ。有難いことに以前から世話になっている2名の編集者が同行してくれた。おれは気安い性格だが人見知りで社交性がないので、本当に助かる。
スタートより少し早く着いたが、会場は既に大賑わい。そのビルの中で一番でかい会議室3室をぶち抜きで立食パーティーのセッティングがされている。
新人のおれにはPR用のコーナーが設けられており、壁沿いの机にチラシや色紙の類を並べる。他の人たちは既に発売済の著作物があるようで 本が書店のように積み上がっていたが、おれたちの刊行はもう少し未来の話であるから、現時点であまり出し物がない。それでもスペースに収まりきらないほどの宣伝物を (出版社側に) 用意してもらった。準備に協力してくれた人たちを拝まなければならない。
さて、満員も満員。百何十人くらい? が集まったところで、いよいよ開宴。
おれは編集者らに導かれるままに名刺を配って挨拶をする。大御所作家、新人作家、編集者、書評家、何かのメディアスタッフ。滅茶苦茶に人数がいる。
正直を言うと、誰の顔も覚えられない。助けてくれ~~、と転がりながら次々に紹介したりされたり。途中、混乱のあまり版元の編集長 (当然元から面識がある) に名刺を渡そうとする場面もあった。なぜそんなに訳がわからなくなっていたかというと……
この後、金の屏風の前に立ち、全員の前で自己&自著紹介のスピーチをしなければいけなかったからだ。長い時間でないにしろ、緊張する。
名前を呼ばれて登壇。
「今日は (自分の小説の登場人物に合わせて) ヴァンパイア・コーディネートです」「SEですが会社は辞めてしまいました」「短篇なら今月の文芸誌に載っております」「吸血鬼のミステリーを書いた受賞作の単行本がもうすぐ出るからひとつ宜しく」というようなことを言う。とにかくタイトルを連呼。数分の台本を作って練習はしてきたが、(スタンドマイクがちょっと低かったのもあり) 無意識にポケットに手を突っ込んだりしてしまって、かなりいい加減な振る舞いだ。
それでも大勢から拍手と声援を貰う。頭を下げて退散。
持ち場に戻ると、同行の編集者がこっそり「100点でした」と言ってくれた。おれが苦笑して首を振ると、「新人は100点の喋りをするより70点くらいのほうが可愛げがあって良いので、そういう意味で70点だったので100点です」と。
おれに可愛げは要らんでしょうが、と思いながらも 飾り立てのないその言葉には相当に励まされた。一方で、そんなにおれを甘やかしていていいのか? と卑屈な気分に。とはいえ、もう1人の編集の人にも「良かったですよ」と褒めてもらって「まあ、大丈夫だったか」というところ。
順々に新人たちのスピーチが終わり、間もなく閉会となるが、なかなか人が捌けない。撤収して通路に出たところでもまだ何人かから声を掛けてもらったりして (とても嬉しい) 十分に用意していた名刺が足りなくなり補充に走るほどだった。
その後「ご飯でも食べて帰りましょうか」ということで近くのビアホールへ。
編集者もおれも挨拶回りに忙しく、乾杯のとき以外 飲食の暇がなかった。それに何時間も立ちっぱなしで疲労困憊だ。
おれは酒を飲まないが、閉店時間まで生活や今後の話 (このときの話題について『30年生きる亀、冬眠しないので日に当ててビタミンを生成』という謎のメモが残されている) などをして、楽しく解散。最後までおれだけが異常に元気だったように思う。
振り返れば、おれが受賞した新人賞の審査に関わった方々にも会って話をすることができた。何かとても大事な言葉を掛けてもらったような気がするが、これはまったく、おれの夢の中の話かもしれないので、皆さま、またどこかでお会いしましょう。