出版社に呼ばれ、会議のようなものに顔を出す。
どうでもいいことだが、編集者の人たちが本当に原稿のことを「お原稿」と呼んでいるのを見て面食らってしまった。なるほど、おれも「お打ち合わせ」と言っておこう。
その前に、東京メトロ神楽坂駅から程近い珈琲館で昼食。おれは遅刻を恐れるあまり、約束の2.3時間前には目的地に着いて喫茶店にいることが多い。
ランチセットの「大葉香る明太クリームソース」はサラダとドリンクが付いて1,390円だ。味については特筆すべきところはない。
何にせよおれは満足した。
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さて、お打ち合わせで何が論じられたのか。ここに内容は一切書かないでおく。
おれたちの間に未だ契約書はないが、一般的な常識から考えて明かさないほうがよさそうな感じだったからだ。ルールやマナーを守らないことで有名なおれだけれど、仕事に関してはしっかりとこなしていくつもりだから、安心してほしい。(ただ、皆のおかげで有難い×××が起きたぜ、とだけ言っておく。そのうち明かすことができるだろう)
改めてここに宣言しておくが、おれは極めて真っ当な大人だ。
担当者への挨拶にはちゃんと三越で買った手土産を持っていくし、そこで領収書を貰うことも忘れない 。税務署にだって漏れなく届け出ている。会議室に通されれば瞬時に下座を把握して、二度勧められるまで茶も飲まないし、受け取った名刺はデュエリストの如く商談机の上に綺麗に並べる。大丈夫だ。おれは経営学的な何かの学士号を持っていて、サラリーマンとしての標準的な教育を受けている。体育会系のムーヴだって多少くらいならやってみせよう。
けれどまあ、そう意気込むのと上手くやっていけるかどうかは別の話だよな。
おれは斬新で奇天烈なスタイルを提示していきたいと思っているが、一方で非常識だと怒られたくはなくて、それでいて平凡だと言われることも恐れている。個性を出さなくてはいけないのも理解しているし、奇想天外なことばかりしていれば他人に迷惑がかかるかもしれない。驕り高ぶらず、へりくだりすぎず、頑固で気難しく、気さくで親切に。そのバランスが非常に難しい。
でたらめと社会人としての正しい振る舞いとの狭間で揺れながら、おれは立派な社屋の会議室を追い出されて一人で帰路につく。
【おまけ】
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どうせだから雨で台無しになったおれのドクターマーチンでも見ていってくれ。ここのところ東京は寒くなってきて、いよいよ自慢のブーツを見せびらかす時期だ。帰りが遅くなるなら上着もちゃんと持っていけよ。
それじゃあ、元気で。