リストランテ・ヴァンピーリの開店

洗われるたこ
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公開:2025/3/18

明日 2025/3/19 (水)、ついに『リストランテ・ヴァンピーリ』が 各書店・ウェブストアで発売となる。

いままで明言を避けていたが、本作は 新潮社主催の文学新人賞「第11回新潮ミステリー大賞」を受賞したおれの長編小説『悪徳を喰らう』を改題・改稿したものだ。

長い間 混沌の中で溺れていた。

泥塗れで擦り切れている野良の作家志望者に手を差し伸べてくれたあなたのことを、おれは生涯忘れずにいるだろう。この素晴らしい栄誉は全てあなた方の応援と協力によってもたらされたものだ。まったく感謝の念に堪えない。

ずっと以前からおれを気に掛けてくれていた人には格別のハイタッチを、いま興味を持ってこの記事を読んでくれている人には投げキスを送ろう。

(私信:「おまえに住所を知られたくね~」と思われるであろうから言い出せずにいたのだけれど、去年 原稿の推敲を手伝ってくれた方々の中で、もしおれに何かを贈られてやってもいいぜ、という人がいたらこっそり教えてほしい。渡したいものがあります)


さて、『リストランテ・ヴァンピーリ』はタイトルの通り、ある秘密を抱えた高級料理店と吸血鬼たちがぶちかます 選択と血の気の多い物語だ。

前回も書いたが、おれは版元が付けてくれた売り文句とは別で (決して不服があったわけではなく、公式のものを無許可で使うのはまずいかと思って)、次のようなキャッチコピーを勝手に制定している。

願いを唱えて自分で叶えろ

このフレーズは、どこにでも自由に撒いてもらって構わない。コピーを唱えて自分で広めろ。

冬の日、リストランテで働く義足の元軍人・オズヴァルドは、食材を保管しておく冷凍室で美しい青年・ルカに咬みつかれ、ルカの双子の妹・アンナの血を飲まないと解くことができない「吸血鬼の死の呪い」を受けてしまう。

ところが肝心のアンナは行方不明、不死身のヴァンパイアである彼らの母親までもが何者かに殺されていて、店で開催する晩餐会には 魔女と呼ばれる謎の航空会社の社長が怪しい双子の兄弟を連れてやって来る。

その裏で、巷には連続吸血殺人鬼の噂が広まり、警察や憲兵隊は血眼になってヴァンパイア捜しに乗り出していた。不徳の王女たる白髪のマフィア・エヴェリスも、その権力を振りかざして晩餐会に潜入する。

オズヴァルドは 店の仲間であるお堅い料理長や赤毛の菓子職人らの協力を得て、給仕に成り済ましたルカと共に魔女やエヴェリスたち客人をもてなすが、次第に「呪い」の症状は進行していって…?

…という導入だ。

実は、ここで目次と冒頭をちらっとだけ読むことができる。

ファンタジー? SF? もちろん、そのようなジャンルを愛する人たちにも楽しんでもらえると思うが、何といってもこれはミステリーの名前を冠した賞を受けた作品である。

とはいえ、わざわざ紙とペンを用意する必要はない。推理の醍醐味を残しつつも、普段は小説を読まないという人にも勧められるし、登場人物一覧のページも付いている。たとえばサーカスは演目が沢山あるが、メモを取ったり事前に知識を頭に入れておかずとも満喫できるだろう。ショーは誰の前にも開かれている。そういうことだ。

イカした装画は、新進気鋭のイラストレーター・衣湖さんが担当してくださっている。引き受けていただけたことにどれだけ喜んだことだろう。おれの相当な我儘を聞き入れてくれた関係者の方々にも深く感謝している。

ところで、ぱっと目を引くこの男は何者なのか?

おれはラフ画段階で初めて見せてもらったとき、仰天した。髪型、表情、服装、ピアスまで…、おれが物語を書きながら想像していた「奴」そのものだったからだ。そして表紙カバーを捲ってみると、そこにはなんと××がいる。粋な仕掛けの真相を、ぜひ手に取って確かめてみてほしい。

新潮社装幀室によるデザインもこの上なく洒落ている。端から端まで拘りと魅力が詰まっているのだけれど、その中でもおれのお気に入りは、章が切り替わるときに挟み込まれる中扉だろうか。古い海外映画のように贅沢な格好良さがある。あなたもページを開いたら「おっ」と思うはずだ。

前回の記事で「裏話をする」と予告していたのだけれど、(ちょっと長くなってしまったので) 受賞から単行本刊行に至るあれこれは、次回以降のエントリで書かせてほしい。コメントを貰えれば、質問などにもできる限り答えるつもりだ。

それ以外にも、感想レターはいつでも受け付けている。定型文でも、収まりきらない長文でも、たった一言でも、何も遠慮することはない。

とにかく、『リストランテ・ヴァンピーリ』は最高の1冊に仕上がっている。特別に美味しい料理を用意しているので、他でもないあなたに食べにきてもらいたいのだ。コースの終わりには、とびきり苦いカッフェと目が覚めるくらい甘いドルチェが待っている。

本を読み終えて閉じるとき、何かお土産を持って帰ってもらえるような、そんな願いを込めて、おれはこの物語を書いた。

これを読んでいるあなたは、間違いなくおれの古参といっていいだろう。いつかあなたが「二礼樹のデビュー作の初版を持っているんだ」と自慢できるように、おれはこの先も頑張って小説を書き続けていく。

どうか注目していてくれると嬉しい。いつも温かい応援をありがとう。

おれたちの『リストランテ・ヴァンピーリ』をどうぞ宜しく!

@octopus
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