ゲルの逆襲 (真のくず餅を求めて)

洗われるたこ
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公開:2025/7/1

土曜の夜。おれはスーパーマーケットに行き、そこで見つけた葛餅を名乗る菓子を買った。ゼリーのような小さな半球型パックに入った、1個百数十円の安物だった。安物の葛餅に葛粉は使用されていなかった。葛粉の使われていない薄甘いどろっとした透明の半固体は、スライムとしか言い表せない迫力のある代物だった。

悲嘆に暮れたおれは、次のようにBlueskyに投稿した。

暑いから食欲がなくてスーパーで葛餅を買ったんだよ。そうしたら葛粉すら使っていない偽物でさあ、パックを開けた途端にゲルが僕にべちゃっと襲い掛かってきたっていうわけ。奴はきな粉で僕が窒息しているうちにドアの郵便受けから脱走して、ついに車道に飛び出した途端やって来たバイクに轢かれて滅茶苦茶になってしまったのさ。黒蜜の跳ね散らかった事故現場に花を手向けてやりたいんだけれど、こういうときってやっぱり葛がいいのかな?

追悼・ゲル餅。安らかに眠れ。

その後、おれを憐れんだフォロワーたちが真の葛餅…ではなく、"くず餅" を取り扱っている店を数々紹介してくれた。

というか、くず餅が "葛餅" と "久寿餅" とで全く別のバージョンとして展開されていることは、世間にとっては常識なのだろうか。知っていたのにおれに隠していた? どうして!

[葛餅]:関西で主流。マメ科の多年草である葛を加工した粉に砂糖と水を加え、火にかけて練りあげた透明な柔らかい和菓子。わらび餅に近いかもしれない。

[久寿餅]:関東タイプ。発酵した小麦デンプンを蒸して作る。白く濁っていてカットできるほど硬さがあり、どことなく おでんのこんにゃくっぽい見た目。

おれの故郷の森には和菓子屋なんて一軒もなかったから、全く本当に知らなかったよ。桜餅なら関東風が好みだけれど、すき焼きは関西風がいいし、くず餅だったらどっちが美味しいかな。

話を戻す。おれはゲル餅を自分の中の "くず餅" ポジションに据えておくことが許せなかったので、記憶を上書きしようと その道の有名店に "真のくず餅" を探しにいくことにした。

東急池上線 池上駅から徒歩約7分。「池上 池田屋」

池上本門寺の参道に建ち、イートインスペースを持つ独立店舗型の久寿餅専門店。江戸時代創業らしい。荘厳な店構えだ。

入口が2つあってトラップかと思ったが、無事入店。

店内は涼しくてさっぱりとしている。販売窓口の隣の喫茶室は16席程度だろうか。おれが訪問したのは平日の15時過ぎだったが、他に何組かの客が飲食をしていた。

昼食を取っていなかったので空腹。メニューを見ると茶飯と久寿餅の食事セットがあったけれど、それよりも…

ミニ膳 (1,250円):久寿餅 + クリームあんみつ + ところてん + 選べるもう1品

…という理想的な組み合わせを発見した。早速注文。選べる1品は汁粉とコーヒーと迷ってアイスクリームの盛り合わせに決定。暑かったからな。

それで、運ばれてきたものを見て、驚くだろう。

まず緑茶を巨大な急須ごとサービスするという太腹さ。そして提供される黒蜜のポット!

ところてんは関東方式の酢醤油味 (からし付き)。アイスは濃厚な抹茶とバニラの2種類。クリームあんみつには沢山の寒天が隠れている。

久寿餅には樽で提供された黒蜜を好きなだけ贅沢に掛けられる。甘党なので凄く嬉しい。

クリームあんみつにも掛けてちょうだいネ、とのこと。了解。

…で、久寿餅はどうだったんだ、という話だけれど、何だかよくわからないが気に入った、というところ。餅と生麩の中間のような弾力で、ぐっと力を入れると「ぬっ」と切れる。すぱっとはならない。

食べてみると本体にはほとんど甘みがなく、仄かに素材の香りがする。きな粉と黒蜜を掛けると期待通り調和の取れた味がした。なるほど。

それよりもおれが感激したのは、ところてんだった。いままで甘い関西風の黒蜜版しか食べたことがなかった (それはそういうものとして普通に好きだった) のだけれど、こちらは冷たい酢醬油の酸味が途轍もなく爽やかで 甘味で揃ったセットの中で一際異彩を放っていた。非常に良い。大人になった気分だ。

全体の量的にも丁度良く、満足して会計に向かう。現金の他にPayPayでの決済が可能だ。

せっかくなのでテイクアウト用の久寿餅 (450円 / 1人前) も購入した。常温で6日間の賞味期限。

まるで路上に久寿餅を直置きしているかのように見えるトリックアート写真。そんな真似はしていない。

帰宅して、ちょうどこの日が "夏越の祓の日" らしいと気付く。何をする日なのか一切不明、見当もつかない。Blueskyのタイムラインを眺めれば 皆が茅の輪をくぐっているということだけがわかる。

どうやら無病息災を願い 水無月 (みなづき) という 白いういろうの上に甘く煮た小豆をのせた三角形の和菓子を食べる習慣があるらしい。へえ、初めて聞いた。ういろうを買ったこと自体もないかもしれない。

世の中にはまだまだ知らない食べ物が存在している。興味は尽きない。

おれは果敢に挑んでいく。

よかったら、チップの代わりに感想レターでも1枚置いていってくれないか。でなければ おれと一緒に冒険の旅を続けよう。

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@octopus
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