生まれて初めて海外に行くことにしたおれは、10月の某日 超早朝の電車に揺られていた。
(注:物理的に汚い話)
昨夜は23:00頃まで必死に仕事。規定量4倍のゾルピデムを飲んでもなかなか寝つけず中途覚醒あり。4:00に起床。成田9時台発の便に乗らなければいけない。準備をして、朝飯代わりにザクロヨーグルト的なパックドリンクを飲む。歯を磨いてそろそろ出掛けるか〜と思っていたところ、急な強い吐き気に襲われ、バスルームで嘔吐。内容物は完全にあのザクロジュースのみだから、滅茶苦茶に赤い物凄い量の血を吐いた人みたいになる。ゾンビ映画の末期感染者のような有様。茫然とするが、ざっと掃除の後 再び顔を洗いうがいをして、何食わぬ顔 (食ったけど戻したから) をしてキャリーケースを蹴っ飛ばし駅へ向かう
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ミッフィーちゃんコラボトレインで成田へ。
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向かうは第1ターミナル。空港近くのホテルに前乗りしていた同行者たる友人と合流して、言われるがままにチェックイン手続き。事前に調べてはきていたが、海外どころか飛行機に乗ることもない (学生の頃に大阪・伊丹へ2度行ったことがあるだけ) おれは何もわからず、ずっと「どこでどれをどうすればいいんですか?」と混乱していた。
友人は列島の遥か南方に暮らしているのだけれど、おれが一人で飛行機に乗れないだろうと心配して、直行便で行けるものをわざわざ成田に寄っておれを拾ってくれていた。このような大変な親切に対し、いったいどのようにして報いればいいのかわからない。
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平日の朝っぱらなので人もまばらだ。荷物を預けて、一旦朝食 (再) をとる。
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空港内にある茶漬け屋でアジのだし茶漬けセットを食べた。付け合わせにごまだれのかかった豆腐というのも洒落ている。
さて、保安検査や出国手続きをして、いよいよ搭乗だ。
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今回乗るのは「AirJapan」
ANA系列でありながら "フルサービスキャリアでもLCCでもない第3のブランド" という不思議な立ち位置にいる新しい中距離国際線の運航会社だ。有難いことに、このチケットも全て友人が手配してくれた。
そして、離陸。
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友人が「おまえは絶対に外の景色が見たいはずだ」と言って窓際席を譲ってくれる。その通り!
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ぐんぐん上へ。
座席モニタや機内サービスはないが (Wifiは有料) 大手グループらしく丁寧な対応。(…そして、これが後の悲劇への伏線となるので憶えておいていてほしい)
途中、配られた入国カードの職業欄に「PROPRIETOR (個人事業者)」と記入するとき、だいぶ躊躇いがあったけれど、「もう会社員じゃないんだな」と感慨深くもなる。この旅行の初期計画時点では、おれは自分がこうなるとは予想していなかった。
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ここまであまり寝れずに来たが、興奮しすぎて眠気を忘れている。
飛行機に乗り慣れている人にとっては馬鹿らしいだろうけれど、おれは本当に「雲の上を飛んでいる」ということに感動した。同時に、天使たちを描いた宗教画…というよりサイゼリヤに飾られている壁画のことを考えた。発想が貧しい。
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およそ2時間半ほどで着陸したのは、韓国・仁川空港だ。
ちなみにおれは韓国語を2年半くらい独学で勉強していて (韓国語の本が読みたくて始めた)、ほんの少しだけ書いたり喋ったりすることができる。友人は海外旅行の経験が豊富にあるが、ハングルは管轄外とのこと。
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逆光だが "INCHEON AIRPORT" のモニュメント。
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荷物を受け取り、まず最初に韓国内で使える交通系ICカード「T-moneyカード」を入手。ついでに自動両替機で2万円ほどウォンに両替。円安も一時期より落ち着き、100円 = 860ウォン程のレートだった。
現地ではカード決済が主流で、屋台やT-moneyカードのチャージ以外ではほとんど現金の出番はないだろう。
ざっくり計算するときは、1,000ウォン = 120円くらいと考えればいい。
空港からソウル市内へは高速リムジンバスを使う。他にタクシーや電車などといった手段もあるが、まあ、一番ベーシックかつ宿泊先の前に停留所があるという理由でバスにした。3列シートの間隔は日本の観光バスよりやや広いくらいで、極めて快適だ。
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1時間半ほどで都市の中心部へ到着。
おれたちは拠点はといえば「相鉄ホテルズ ザ・スプラジール ソウル東大門」という宿になる。名前の通り日系の相鉄ホテルシリーズの1つだ。(これはさすがにおれがリサーチして予約した)
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眠らない街 ソウル・東大門のど真ん中にあって、地下鉄の駅もバス停も近い。貯金で生活しているおれにとっては贅沢 (といっても1泊1.5万 / 1人) な価格設定ではあるが、フロントには日本語を話せるスタッフがいて、アクセスと清潔感は抜群だ。
今回はここを中心に3泊4日を過ごす。
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異常に神経質 (さまぁ~ずの大竹を想像してもらえると大体合っている) なおれも安心して眠れる綺麗な部屋。とても快適に過ごせたが、コンセントは日本とは違う規格であるから、(貸し出しはありそうだったけれど) 念のため変換器を持っていったほうがいいだろう。
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韓国ではバスタブがないことがほとんどらしいが、ここにはある。素晴らしい。
さて、昼も過ぎて時刻は15:00。いい加減 腹が減ったから広蔵市場へ行ってみよう。
ホテルの前でタクシーを捕まえて5分ほど。韓国はタクシーの運賃が安く、日本の3/5くらいの感覚。ただし観光客を狙ったぼったくりもあるみたいなので、流しよりは配車アプリ (카카오 T) を利用するのが得策だろう。
基本的にはGoogleMapも使えない (場所が登録されていなかったり経路検索ができなかったりする) から、NaverMapのアプリインストールも必須だ。
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「プチョンユッケ (부촌육회)」
すぐ近くに本店があるのだが、色々あって別館のこちらへ。名前の通りユッケの店だ。
入口のメニューを見ていると、若い店員がすぐに気付いて日本語で注文を取ってくれた。待ち時間なしで店内へ通される。噂によると食事時や休日などは大行列となるらしいので、幸運なタイミングだったのかもしれない。出前サービス員らしきヘルメット姿のライダーもひっきりなしに出入りしている。
おれたちが注文したのは「ユッケと活きテナガダコ (육회낙지탕탕이)」
初日一食目から果敢にも生ものを攻めていく。たしか35,000ウォンくらいだった。セットで人数分の大根と牛肉のスープが付いてくる。
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着席してすぐに提供。韓国の食堂に共通することだが、カトラリー系は各テーブルの引き出しに入っている。周りの会話を聞く限り、客は日本人が多そうだ。
ユッケ (初めて食べた) もタコ (そこはかとない罪悪感を感じる) も臭みがなく、新鮮で歯応えが面白い。底に埋められていた千切りの梨が存外に良いアクセントになっており、ごま油の風味もよくきいている。そして温かいスープが優しい味で美味しかった。1人前を頼んでシェアしたのだが、大盛りで実質3人分くらいある。隣にいたカップルはフルサイズのビビンバとユッケを前に絶望的な顔をしていた。
さて、予想外に満腹になったが、せっかく市場に来たのだから他にも見ていこう。
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道は狭いが、平日の変な時間だからか空いている。
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「GOMANGO」
チェーンのマンゴージュース専門店だ。小さいサイズで1,800ウォン~と、フルーツジュースとしては格安。オーダーはセルフのパネル式で簡単。ココナッツミルクフォームの乗ったものを注文したが、もったりと濃厚で甘く冷たい。日本にも出店してほしいけれど、そのときの値段はだいぶ高くなりそうだ。
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そしておれが楽しみにしていたのは、フレッシュジュース屋。好きなフルーツの入ったカップを選ぶとその場でジューサにかけてくれる。YouTubeで見かけてから一度行ってみたかったのだ。
ドラゴンフルーツとグリーンキウイ・マスカットが入ったものを頼む。どれでも5,000ウォン。「これをください」と選んだ1つを指差すと、氷と一緒に粉砕して でかいカップに並々と注ぎ入れてくれる。日本のスタバの一番大きなサイズくらいの量だ。ブドウの味がしっかりと感じられて、爽やかなスムージーのような感じ。なるほど、これは1食にカウントできるくらいのボリューム。
まだまだ気になるものはあったけれど、あまりにも満腹なので、まだ明るいが歩いてホテルに戻ることに。広蔵市場は翌々日にも再訪する。
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途中で見つけた公衆電話。
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車優先かつ右側通行なので、油断すると横断歩道内でも轢かれそうになる。青信号が終わり1秒でも車道に残っていようものなら容赦なくクラクションを浴びせられる (それで済めばいいが) から要注意。
空気が綺麗ではないと聞いていたけれど、それはべつに気にならなかった。からっとしていて、長袖上着なしでちょうど良い気温。
ここ数週間 身体の調子がおかしく、全く空腹にも眠くもならない。困りはしないのだが やはりどこか不気味なところがあり、他人に少し相談したところ「ゾンビか?」と突っ込まれる。ウケてしまったけれど おれは普通に躁だと思うよ
この状態は、まだ続いていた。友人と「明日のために体力を温存しておこう」などと話しながらも、おれはゾンビなので、朝方に嘔吐し短い睡眠時間で重い荷物を持って滅茶苦茶に歩いても実は全く疲れていない。
ということで、このまま寝るのも勿体ない気がしたから、コンビニ (CU) に行って夜食を購入。何店舗か回ってみたが、どこも店内はKiosk並みに狭い。イートイン的なテラス席が設けられている所も多く、ラフな格好の親爺たちが特に何かを食べるでもなく座って喋っていた。
そして、ホテルに帰ってテレビを見ながらコンビニパーティーだ。
韓国はチャンネル数が物凄く多いが、1つの番組を短いスパンで再放送しまくっている。おれはテレビショッピングが好きであるから、友人に了承を取って謎のビタミン剤の通販番組を鑑賞。ナレーションは半分程度しか聞き取れないが、ジャパネットたかたばりの大袈裟なリアクションが面白い。
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コンビニで買った商品たち。左奥から順に、バナナ牛乳 (바나나우유), イチゴ牛乳 (딸기우유), パウチ飲料用の氷コップ (아이스컵), チョコえもん (초코에몽) たるココアのようなドリンク, パウチ式のアメリカーノコーヒー (아메리카노), 手前はビヨット (비요뜨) というチョコレートシリアル入りのヨーグルト。
…液体物ばかりなのには訳がある。
韓国では 1 + 1 や 2 + 1 という売り方がよくされており、これは飲料や菓子などで同じ (または同シリーズの) ものを1つ (2つ) 買うとおまけで + 1つ貰うことができるシステムだ。1個だけ欲しい場合も、規定個数をレジに持っていって「これは不要なので (店員に) 差し上げます」と申告しないと、制度を理解していない or 取るのを忘れたのだと判定されて面倒な展開になってしまう。というわけで、フルーツ牛乳とビヨットがその対象であったから、結局なんだか凄い量に。
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ビヨット。中のシリアルには色々なバリエーションがあるが、こんな感じに区切られているのを折り曲げてヨーグルトに投入する。ヨーグルトはほんのり甘く、チョコレート味のシリアルがさくさくしていて駄菓子的な美味しさに夢中になってしまった。このときは 2 + 1 だったから写真の他にもう1つ買っているけれど、それぞれの違いはあまりわからない。
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もしかすると日本でも手に入るのかもしれないが、コンビニ商品の中でおれの一推しはチョコえもんだ。ココアというよりアイスショコラに近いデザート的なドリンクで、パッケージから想像するよりもリッチなチョコレートの味がする。でも、これを飲む際には別に水や茶も用意しておくのが良さそう。甘党としてはバナナ牛乳も捨て難い。
また、おれは寒い時期にもアイスコーヒーばかり飲んでいるが、韓国にも「オルチュガ (얼죽아, "凍え死んでもアイスアメリカ―ノ" の意)」という造語があり、現地人は冬でも食後にアイスアメリカ―ノを飲むという。おれたちは気が合うだろう。このパウチのアメリカ―ノは (当たり前だが) 普通のコーヒーよりも薄くて水分補給向き、香りは麦茶やコーヒーゼリーのようで気に入った。
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ホテルからの景色。東大門の夜は眩しい。主にファッションの卸売を行う店が多く集まるエリアということもあって、大きなショッピングビルが夕方から朝方にかけて夜通し営業している。
ゲリラ豪雨のような水圧のシャワーを浴びて、次の日の計画を立てながら沢山のゾルピデム錠を飲み、分不相応な広さのベッドで眠りに就く。
長くなったので、一旦ここまで。しずかなインターネットは写真のアップロード制限があるから この旅行記は全3回にわたることだろう。
次回は明洞に繰り出して、大人気パン屋で切り出したばかりの蜂の巣を食ったり 目を痛めるほど派手な玩具屋に行って土産物を探したり 英語で生蟹と格闘したりする。お楽しみに。