「そうね、あなたの言う通り、憂鬱になることもあるけど、そればっかじゃないんだ。特に二人めの子を見てるとね、一瞬一瞬が驚きなのよ。おなかが空いてない限りはずっと笑ってるんだもの。ひっきりなしにいたずらの種を見つけ出して、それで幸せで、活気に溢れている。いちばん自然な状態のとき、人間ってこういう存在なんだろうね。私たちももともとはああだったけど、そのあとにいろいろプログラムされて、本来の状態を忘れて暮らしてるんじゃないかと思うわ。
そうかなあ……でも、覚えていないしねえ。
何を?
私は答える。
私があのくらいだったころ、どうだったのか。
……覚えていられないころのことって、無意識の中に入ってるのかなあ? そうだったらいいのにね。そんな自然な状態が隠れていて、いちばん必要な瞬間に私たちを助けてくれるんなら」
(ハン・ガン著、斎藤真理子訳『回復する人間』より)