先日友人に誘われて、『HiHi Jets Arena Tour 2024 BINGO』ぴあアリーナMM公演を観た。
昼公演参加だったが、私は朝早く起き友人との待ち合わせ前にある場所へ向かっていた。
ポケモンセンターである。まさかすぎる場所。
最新作『ポケットモンスター スカーレット・バイオレット』の追加DLCより登場したポケモンのステッカー発売日がちょうどその日だったのだ。
左がチャデス、右が進化系のヤバソチャ。それぞれ茶入れと茶碗のすがたをしていることが茶道部時代の記憶を想起させられ、追加DLCをプレイしてからの自分はやたらこのポケモンに執着している。
レジに行くと、スタッフのお姉さんに「チャデスが好きなんですか?」と話しかけられてびっくりした。開店5分で同じポケモンのステッカーを3点ずつ持ってくる客がいたらそう尋ねてしまうのもまあ無理はないか。
さて、本題のライブについて。
ひとことでまとめると、めちゃくちゃ楽しかった。
最悪なことにまったく予習をして行かなかった。オリジナル曲で知っているのは『Hi Hi Jet』1曲だけ。あと『おいで、Sunshine!』。そんな舐めきった感じでヘラヘラと連れられて入場したのだが、なんとアリーナ3列目というもったいないくらいよい席を引いてしまった。しかも花道横である。下手したら映像に自分の顔が残る距離だ。友人は仕事の都合でグッズを買い逃したことを大変後悔していた。
最前近くということもあり、周囲の熱量の高さをなんとなく肌で感じながら開演を待っていた。特に好きな顔の男もいないので、グループカラーでも振るか〜と思っていたらオリジナルペンライトはメンバーカラーの5色しか光らない仕様だった。ペンライトを光らせる行為は私にとってかなり重い意味を持つ。なんというか、ステージに立つ演者に「あなただけを見ている」という意思表示で、たとえば刺青を彫るような、ゲームを始めたときに決める名前や性別が最後まで変更できない仕様と同じなのだ。やはりどうしても好きな顔の男がいないので申し訳ないなあと思いつつ、周囲数席にいなかった青色を光らせることにした。
全体的に、BINGOというツアータイトルを意識したつくりだったことがよかった。
オープニングではステージ中央に投映された大きなスロット台からHiHi Jetsの5人が登場するのだが、赤チェック柄のスーツに黒いジャケットの衣装を着た彼らが出てくると、たちまち会場がゴージャスな雰囲気にあふれ、カジノのような騒がしくも華やかな富裕層の世界に連れてこられた気分にさせられた。そこで歌う、オリジナル曲の『Hi Hi Let's go now』がまたいい。SMAPの『SHAKE』『ダイナマイト』のような曲調で(調べたら同じ作曲家だった!納得しかない)、これから楽しい時間が始まることを感じさせてくれるワクワクした曲なのだ。
なんてったって Na Na Na 何回だって
こころのムーブ ときめくほうへ
担当でもないのに、サビの歌詞で半泣きになってしまった。
いろいろあって、もう2年くらい、理想のアイドル像だったりオタクとしてのスタンスについて考えさせられている。正直、偶像を応援する行為を苦痛に感じている最中なのだが、そんな重く憂鬱な気持ちをすべて吹きとばしてくれるような、そんな勢いがあの空間にはあった。言ったら悪いが、ダンスも歌も特段飛びぬけているわけではない(もちろん上手いが)。でも、アイドルってそういったものがなくても誰かを楽しませられると思う。
そのあとのSMAP『$10』ではBINGOと書かれた紙幣が大量に降ってきたり、オリジナル曲『FRONTLINE』では気がついたら高そうなファーコート(しかも全員違う柄)を羽織ってきたりと、とにかくめちゃくちゃ景気がよすぎる。派手。ローラースケートでメンステや花道を疾走感いっぱいに駆け抜けながら、アップテンポで盛り上がる曲、ソロコーナーと続いていくが、急に聴き覚えのあるフレーズが流れはじめて私は耳を疑った。でも間違いなく、それはKinKi Kids『Kissからはじまるミステリー』のイントロなのだ。松本隆の書く歌詞がもともと好きで、最近山下達郎をゆるく勉強しはじめている自分にとっては本当にテンションがぶち上がる展開だった。高橋優斗さんがソロで歌ってくださったのだが、なんとなくじめっとした落ち着いた雰囲気がある本家歌唱に対して、高橋優斗さんの歌い方は明るくからっとしていたことが面白かった。曲中で主人公は電車に乗った“君”を密かに尾行するが、ゆうぴーは多分怒られないと思う。
オリジナル曲『NEVER STOP -DREAMING-』(調べたら西寺郷太が作詞作曲をしていてまたもや驚かされる。いい曲もらいすぎ)では、センステに円状の昇降装置が上から降りてきて、ローラースケートを履いたまま紐1本でフライングをする演出がある。
いつまでも夢を諦めない僕らを
まだ子どもだなんて笑う人もいるだろう
答えを探した この街はメリー・ゴーラウンド
フライング自体もきれいでかっこいいのだが、立ち姿勢でゆらゆらと円を描く彼らは、まさしくこの曲の歌詞にあるメリーゴーラウンドにしか見えなかったのだ。テーマからピーターパンも思い浮かべるし、3,4階席のペンライトの光に包まれた彼らはどこか幻想的に見え、曲の演出として最高だった。
井上瑞稀さんと猪狩蒼弥さんのユニット曲『Lazy』が厨二病全開の演出でめちゃくちゃ笑ってしまった。AIの逆襲がテーマのようで、電脳世界を意識した世界観に近未来的な衣装を着た2人が近未来的な電気椅子に座り脳みそに通電させられながら超俗的に歌う姿はなんか異様。でもあんなん嫌いなオタクいないよ。
あとは同じく猪狩蒼弥さんのソロコーナーでは、透明なドーム型のテントの中で猪狩蒼弥さんが白いグランドピアノを弾きながら歌い、最後には大量の薔薇が舞い散るという演出があった。ところで私は『金色のコルダ3』に登場する天宮静という男が好きなのだが……この演出が、もう、もう天宮を思い出して思い出して仕方がなかった。だって温室の箱庭で?薔薇で?愛にやぶれる歌で?ラボラトリーラブといっても過言ではないのでは。でもバックスクリーンで流れていたアニメーションとエフェクトを盛り盛りにされた歌詞が完全にTikTokで死ぬほど見かける歌詞動画だったので、かろうじて眼前で歌っている人間を猪狩蒼弥さんとして認識できた。あぶないあぶない。
MCコーナーでも、ツアーコンセプトに合わせた企画も用意されていた。巨大なBINGOパネルがステージに持ちこまれ、BINGOゲームをやることでセトリ落ちしたであろうオリジナル曲たちを披露するという趣旨だ。ツアーコンセプトをきっちり汲んだ内容なのはもちろん、その日のその公演に入った思い出になるし、すべてのオリジナル曲を大切にしている気持ちも伝わった。毎公演ビンゴマスに書かれた文字(繋げると文章になっている)が変わるところも面白くてよい。
HiHi Jetsはトークが面白いという印象はもともとあったものの、実際単独で喋っているところを見ると本当に上手い。自分の中で衣装替えは曲の合間やMCの終わり際に行われるイメージだったが、彼らは2チームに別れて着替えをしながら交互にMCを進めていくのでとても驚いた。グループだとひとりふたりがトークを回していくのが定石だが、彼らは全員が回せるし話せるのだ。面白さを突き詰めるとどうしても過激な表現に至ってしまいがちだが、彼らは、人によってはひっかかるかもしれない発言をした時にすかさず註釈やフォローを加えるところが印象的だった。自分たちをしっかり客観視しているのだと思うし、これまでのいろいろなあれそれ(ぼかし)を踏まえた選択なのだろうなとも思う。それはそうと、猪狩さんが「ぴあアリーナは監視カメラがやたら多くて、開演前の会場外の様子が見られます。ずっとみなさんのこと見てましたよ(要約)」と言い出した時は会場全体がシーーーーーン……となってしまった。肝が冷える発言やめろ。
私はあまりアンコールに意義を見いだせない。演者がアンコールありきのセトリを組む現状においては着替えや休憩の時間としか思えないし、少なくとも自分が声を出す必要はないと思っている。声が小さいという理由で出ないなら出なければいいくらいだ。といってもそれは少数派の意見で、今回の公演終了後も、アンコールを求める声がばらばらと響いた。しばらくして規制退場のアナウンスが流れたのだが、声の主は高橋優斗さんだった。もちろんオタクはエー!と反抗する。すると「みなさんの声は聞こえておりましたが、揃えて呼んでください。改めて、統一感を持ったアンコールをメンバー一同、欲しております(要約)」と告げられたのだが、なんというか、煽りが上手すぎる。感心しかない。面白かったのでさすがの私も声を出した。
挨拶も感動を誘うような内容ではなく、ただ楽しいという気持ちを共有してくれただけで、そこがむしろよかった。猪狩さんが「ショーのような観るだけのライブではなく、自分たちとみんなで体感できる空間にしたい(要約)」と言っていたことが彼らのモチベーションのすべてなのかなと門外漢なりに感じた。
あとは、本当に書いていいことなのか迷うけれど、やっぱりここは自分のための場所なので書く。SMAP『Fly』で昇降装置の上に乗り、黒ハットに金色のラメがきらきらと光る黒ジャケット姿でゼロ・グラビティをしている彼らを見て、それまでの演出でも薄々と感じてはいたが、先代や会社の伝統へのリスペクトの意思が強く伝わってきた。私は当時を立ち会っておらず、しいていえば光GENJIと少年隊の楽曲が好きで、自伝舞台を観たり歴史を後から調べたりしただけの身だが、それでもなんとなく感じ取れた。一連のことについて、どう思っているのかは分からない。ただ、あの事務所のエンターテイメントの在り方や黄金期の勢いを見せてもらえて、ひたすらに楽しかった。
そんなわけで、ものすごく元気が出る公演だった!
どうでもいいが、特効の真横をローラースケートで通り抜ける時に腕で顔を守っていたところが自分の地味な萌えポイント。やっぱり怖いのか、ちゃんとそういうふうに指導されているのだろうか。リスク管理は大切。
もう少しがんばろうと思えた。