掃除機をかけながら『君を想う』

okeisan
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ナインボーダーの初回みどころSPを

見ていて非常に気になったのが、恋とは

という質問に対しての答え。

『気づいたらその人のことを考えて

しまう』という発言。そして金曜日の

ラジオで新しい掃除機を朝からかける

のが楽しいとお話していて…ならば

掃除機をかけながら誰かのことを考える

のか?という考えに至り妄想してみました。


ベッド横の小さな窓から朝の光が

差し込む。瞼ごしに陽の光とほんのり

温かさを感じる。眠っていた僕は

眩しくて無意識に左手で陽の光を

つかんでいた。

ベランダにいつものかわいい雀たちが

来てじゃれあっているのか、さえずりが

聞こえてくる。

(もう朝か…)

昨日は朝早くからの撮影だったが、途中

トラブルが起き、そのせいもあって夜は

撮影が押しに押して帰ってきたのは

夜中の2時過ぎ。疲れたきった僕は

なんとかシャワーを浴びてなだれ

込むように寝てしまった。

(そうだ、洗濯してなかった…!)

いつも風呂上がりには洗濯が終わる

ようにしている完璧な僕が洗濯を

してないなんて余程疲れていたん

だなと自分を説得する。

「ん〜っ、ふぅ〜」大きく伸びをして

ゆっくりと起き上がり、ベッドに腰を

かける。

(まだ少しダルいな…)

昨日の疲れが残っているらしい。

寝癖のついた髪をかきながら

ぼんやりと部屋を見渡すと、掃除機が

視界に入った。

最近買ったばかりで、軽くて

スタイリッシュなのに吸引力が強く

コロコロでも取れないラグの小さな埃…

いや子どもたちもとてもよく取れる。

ダストカップが透けているから

ゴミが溜まっていくのが見えて

掃除している!と実感できて心地よい。

今やなくてはならない相棒というべき

掃除機である。

(そうだ、昨日の夜掃除してないから

 掃除機かけよっかな)

ベッドから立ち上がり、疲れを

吹き飛ばせとばかりに大きな伸びを

して掃除機へ向かう。

掃除機を手に取りスイッチを入れると

何だか自分のスイッチが入るような

気がした。

寝室をひと通りかけ終わるとそのまま

相棒と洗面所へ向かう。一通りかけると

相棒を待たせて歯磨きをすませ

昨日忘れてしまった洗濯機のスイッチを

入れる。

「相棒、おまたせ」

掃除機に声をかけ次はリビングに

向かった。

リビングの大きなテーブルの周りを掃除

しようとした時、小さく折り畳んだ紙が

落ちているのが見えた。

(うん?なんだろう…)

手に取って広げてみると、カラフルな

色のキャンディの包み紙だった。

(これ…昨日あの子にもらったん

だっけ…)

最近、知り合ったばかりだけれど

いつ会ってもあの子は笑顔。暗い顔を

見た事がない。

僕が話すことにもよく笑い転げていた。

そんなあの子にいつも癒されている。

でも昨夜は現場でトラブルがあり

一生懸命対応に走るあの子が心配に

なって目で追っていた。

日付が変わる頃、飲み物を買いに控え室

を出ると、廊下のベンチに疲れた顔の

あの子が1人座っていた。僕は

さりげなく横に座ると、心配で声を

かけた。

「お疲れ様、大丈夫?」

すると、あの子は背筋を伸ばして

「はい、大丈夫です。洸平さんこそ

お疲れですよね?これ、よかったら。」

と、とびきりの笑顔でキャンディを

くれた。

撮影が終わり帰りの車の中で食べた

キャンディの甘さは疲れ切った僕の

身体にかなり染みた。

(あの後、どうしたかな…)

包み紙を見ながらその事を想い出し

耳が熱くなるのが分かった。

(何照れてんだよ…俺)

ハッと我に返り、恥ずかしさをかき

消すかのように掃除機のスイッチを

再び入れる。

隅々を丁寧にかけながら

(あの子にこれからどれだけ会えるか

分からないけれど、こうやって想い出が

増えていったらいいな…

いやいや、あの子の笑顔がただ

見たいだけ…

それだけで僕は幸せな気持ちになる…)

僕の心の中で小さな葛藤が起きる。

掃除機をかけながら、胸の真ん中が

キュッとなり、ヨレヨレのTシャツの

真ん中を思わず掴んだ。

その手を見た瞬間

「ふふっ」そんな自分が可笑しくて

思わず吹き出してしまった。

(朝から何やってんだ…俺…

…そっかあの子の事好きなんだ)

自分の気持ちにやっと気づいた僕は

最近お気に入りの曲を鼻歌で歌いながら

掃除機を再びかける。

あの子の事を想いながら…。

(END)