さよならだけが人生なんて

okurairi
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先日に引き続き好きな漢詩の話していいですか? \いいよ/ ありがとう。

とはいっても漢詩は全然知らなくて、有名どころの話しかできないのですが。

【原文】

 勧酒   于武陵

 勧 君 金 屈 卮

 満 酌 不 須 辞

 花 発 多 風 雨

 人 生 足 別 離

【書き下し文】

 君に勧む金屈卮(きんくつし)

 満酌(まんしゃく)辞するを須(もち)いず

 花発(ひら)けば風雨多く

 人生別離足る

【訳】

 君に勧めよう、この金の杯を

 遠慮せずこのなみなみ注いだ酒を受けてくれ

 花が咲くと雨や風にさらされることが多くなり

 人生には別ればかり続く

この詩は井伏鱒二も訳していて、特に四句目の「サヨナラダケガ人生ダ」はめちゃくちゃ有名ですね。私もそれで覚えていて、今回これを書くためにググったら、とあるサイトに

「『サヨナラダケガ人生ダ』と言われると突き放した感じがあるけど、原文のニュアンスはちょっと違うんじゃないか。わざわざ豪華な『金の盃』を出してきたところに、相手を励ましたいという意図を感じる。訪ねてきた『君』が落ち込んでるから『まあ、人生辛いこと多いけどそうへこむなよ』、って言いたかったんじゃないか」

的なことが書いてあって、なるほどなあ、確かになあと思った。

井伏鱒二の訳文については寺山修司も自分の詩(幸福が遠すぎたら)で引用していて、

「さよならだけが 人生ならばまた来る春は 何だろう(中略)

 さよならだけが 人生ならば人生なんか いりません」

って書いてるんですよね。確かに井伏鱒二には申し訳ないけど、「サヨナラダケガ人生ダ」って言いきられるとそんなことないわい、とちょっと反論したくなるかもしれないと思った。

ところでこの訳、太宰治も遺作となった作品「グッド・バイ」についての言葉として引用してるんですよね。

以下全文。

「グッド・バイ」作者の言葉

「唐詩選の五言絶句の中に、人生足別離の一句があり、私の或る先輩はこれを『サヨナラ』ダケガ人生ダ、と訳した。まことに、相逢った時のよろこびは、つかのまに消えるものだけれども、別離の傷心は深く、私たちは常に惜別の情の中に生きているといっても過言ではあるまい。 題して『グッド・バイ』現代の紳士淑女の、別離百態と言っては大袈裟だけれども、さまざまの別離の様相を写し得たら、さいわい。」

こんなこと書いておいて、最後の作品なのに完結させないまま心中しちゃうんだから、最後の作品に、こんなこと書いちゃうんだから、ほんと太宰そういうところ……ほんとさあ……(愛憎)。