30歳から同人活動はじめた -中編-

奥瀬ユウリ
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「完全に舐めていた」

漫画を描き始めて、1番最初に思ったことはそれだった。

美大入試対策で2年間デッサンをし、美大でデザインなどを学んで、その後デザイナーで仕事をしている。だからこそ、正直自分を過信していた。イラストも漫画も「全くの素人よりできるはず」と。

思い上がりも甚だしい!

今までの経験、漫画描く上でまーったくなんの役にも立たない。びっくりするくらい役に立たない。調子に乗っているにも程があった。過信していた自分がほんっとに恥ずかしい。

よくデッサンができれば「絵が上手く描ける」と思われがちなのだが、イラストや漫画で「良い絵が作れるか」と言うのは、デッサンの能力だけの問題ではない。デッサンは「正しくものが見れる」能力を鍛える側面が強くて、デッサン力の単体能力だけでは、魅力的なイラストや漫画にはならないと思う。もちろんデッサン力も必要なことだけれど、漫画として「面白いか」とか「魅力があるか」というのは、デッサンできるかとかだけではなくて「漫画能力(ストーリー含む)」というまた別の総合的な能力が必要なのだと感じた。あくまで私の感想だけれど。

漫画、とにかく1ページ描くのですら、めちゃくちゃ時間かかる。思っていた5倍は時間かかる。いや、5倍どころじゃない、10倍、20倍くらいある。時間がどんどん溶けていく。

「何回このキャラの顔描けばいいんだよ」って思う瞬間が1万回くらいある。最初は好きなキャラをかけて楽しい気持ちもあるが、どちらかというと「自分の微妙な技量で表現された推しキャラ」と向き合わないといけなくて、かなりつらい。脳内の最高の推しキャラが自分の手では「微妙」な出力しかできない。ポンコツプリンターすぎる。

また、キャラによっては髪型が特殊だったりすると「この向きだとこの髪型どうなってんの?」って頭が混乱するし、カメラワーク的なことがよくわかっていないので、「次の場面でキャラが別の位置に瞬間移動しとるんだが」みたいなこともある。

そして、あまりにいろんなものが描けないので「建物の背景描けないから森にいることにしよう」という荒技を使って乗り切った。ファンタジーな作品なので許されたけど、現代作品で活動してる人はそうもいかないだろう。本当に尊敬する。また、私は年齢制限のあるものではなかったのだけれど、年齢制限のある大人向け作品描く人って違和感なく身体とか描かないといけないので技量めっちゃいると思う。すごいや。

そしてとどめは、表紙のイラスト。漫画は不得意でも一枚絵であるイラストがうまければ、またそれも魅力になるのだけど。私にそんな能力はまったくなかった。そのためフツーにめっっちゃ時間かかる。思っていた30倍はかかる。

このほかにも、クリスタの使い方細かい部分よくわからん問題などもあり、とにかく結果的に想定していた(体感)100倍の時間がかかった。それによってスケジュールは押しに押されていき、入稿締め切りの3時間前なのにまだ表紙ができていないという状態に。

正直仕事でさえこんなにギリギリになった経験がない。

「もう趣味なんだから今回は諦めようかな」という考えが一瞬頭をよぎった。しかし悲しいかな、「デザイナーは締め切りを守れることがスタートライン」という大学時代の教え(意訳)があり、締め切りを、自分を裏切れない。

どうにか、3時間でイラストを描き上げ、入稿。

「イベントで本が出せる!それだけでもよしとしよう!」と前向きな気持ちより、「イラストクオリティ最悪すぎる!ああ、誰にも見せたくない!」という、うまくできなかったことへの恥ずかしさが勝ってしまっていた。しかもそれを売る。どんだけずうずうしいのだ、自分は。

初めてのイベントは、こうして本当に本当に気が重いスタートとなったのだった。

@okuse
グラフィックデザイナー14年目 / 綱渡りフリーランス / デザインの有益な話はほぼない日常の話 / オタク