oll_rinkrank
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昨日のエントリでですます調だったのはもともとTwitterでツリーにして書いていたものをアタマだけ残してこちらに移行したから。とくにキャラを変えたわけではない。

昨日の文章でははっきりとは書いていないが、かいつまんでいえば、現代先進国社会ではβオス(弱者男性)を労働力として取り込むことに苦労するようになりつつある(=少子化の遠因となっている)ということだ。

20世紀初頭にニューギニアを調査した人類学者マリノフスキによる記録を検討すると、人類はおそらくごく最近になるまで「生殖の仕組みについて正確には理解していなかった」と考えられるという。

彼がフィールドワークを行ったトロブリアンド諸島の記録によれば、島を出稼ぎで長く離れていた青年が数年ぶりに帰島すると、妻に新たな子供が生まれていたという。しかし彼はその子を自分の子として全く疑うことがなかった。母系社会の伝統をもつこの島国では、父親の精子が生殖に関連するということが知られていなかったのだ。ちなみに、ニューギニアなど太平洋の島々に今暮らしている人々の多くは、三千年ほど前に中国南部付近から海を越えて植民していった人たちの末裔だといわれている。もちろん中国の中央平原ではすでに原始的な国家が形成されていたし、遠く地中海沿岸でも現代文明につながる科学的な思考が生じていたが、それ以外の地方では、まだその段階には達していなかったということだ。

生殖の仕組みを理解している現代人は当然、妻が不倫をしていると思うだろうし、他者の遺伝子(を持つ子ども)を自分の資源を割いてまで養育しようと考える人は少数派であろう。しかし、それを知らないトロブリアンド諸島の人たちは、妻が産んだ子は自分の子であると見做す。また女性のほうも性交そのものを倫理に縛られる行為であるとは考えていないことになるのだろう。夫が留守の間に、気に入ったムラの男性(おそらくはイケメンマッチョなαオス的存在だろう)と一夜を共にしても、それが産まれてくる子とは何の関係もないのだから。その結果、βオスは労働力を社会(家庭)に提供し、自分と妻の子、妻とαオスの子、という両者を養育していくことになる。

しかし島の社会制度上は一夫一妻制であって、女性たちは、(通過儀礼を終えた)成人男性に「割り当てられている」ということになろうから、女性側としては自身の女性性を弱者男性に提供することによって(βオスの子も産むことによって)、αオスと自分の子を養育する資財を得るということになる。このように、「αオスを頂点とするハーレム型の共同体」との生存競争が行われた結果、βオスを労働源として取り込んだ共同体のほうが優勢となって、女性たちもまたより産み、育てる方向に(肉体も心も)適応していったと考えられる。

これを古代の話と考えてばかりもいられないことは昨今の調査によって明らかにされている。現代社会でもDNA検査をすると、少なくとも妻が産んだ子の何%かは他者男性の遺伝子に由来するものだとわかるのだそうだ。数万年かけて形成された私たちの心(無意識)は、せいぜいここ百年程度に形成された新しい倫理観によって制御できるものではないようだ。もちろんこれは男性側も同様だろう。

前置きが長くなったが、現代を顧みれば、許嫁制度やお見合い制度が崩壊し、それに伴って周囲の同調圧力も弱まり、婚姻は自由恋愛によるものが主流になっている。従来(日本では昭和くらいまでか)のような「女性を分配する」という力は社会の中に働かなくなり、弱者男性が伴侶を得ることは困難になってきた。しかるに、高度に発達したこの現代消費文明社会は、弱者男性のみならず、女性をも労働に取り込まなければ、すでに維持できなくなってしまっている。またIT化によってあふれだしたポルノグラフィーは、弱者男性たちから、リアルな女性性を獲得しようとする競争意識を減退させる。そのような状況において、都市に暮らす令和の若者たちの多くは、あえて汚れ仕事に埋もれてまでも妻子を得ようとは思わない。独身税の導入うんぬんという話もあるが、それはかつて権力者であった男性たちが、女性たちをモノとして扱ったことと本質的には変わらない。

そしてもちろん私たちは、「女性を分配」していたあの頃に後戻りすることもできないのだ。

今述べたようなことは、現在施策されているような少子化対策とはほとんど関連していない。当然ながら上記のような指摘だけが少子化の原因ではなく、他にも様々な要因が挙げられるとは思うが、小手先の手当ばかりを優先していては(それは同時に権力者たちの保身とも深く関わっている)、遠くない未来に起こるであろう破局を食い止めることは、難しいと思う。