オルガ・トカルチュク『昼の家、夜の家』(白水社)を読了。
修道院BLっぽいなどというXでの投稿を見て、つい邪な動機から読みはじめたが、その点はさておくとしても大満足の読後感だった。いいね!を100回連打したいくらいには気に入った。
おそらく主人公と思われる現代人の「わたし」の語る話、聖女クマーニスの話やそれを記す修道士パスハリスの話、人肉食いのエルゴ・スムの話など、短い断章を連ねていくスタイルは一見すると散漫な印象を与えるが、互いにゆるやかにつながっていて、まるでモザイクかパッチワークのよう。まるきり関係ないとしか思えぬ逸話が思わぬところでつながったりするのがどこか不思議で心地よかった。ところどころさしはさまれる毒キノコのレシピが興味深い。決して真似して作って食べたりしないように(笑)。
読みながらポーランドの現代史についても、もう少し勉強したいと思ったのだった。読書の醍醐味のひとつとして、自らがいかに知らないかという無知の発見を挙げることができると思うが、その意味でも本作は大変充実した読書体験をもたらすものだった。
以下は気になった箇所の引用:
「人間にとっていちばん大事な義務は、新しいものを創ることではなくて、滅びそうなものを守ることだ、と。」(118頁)
「彼はプラトンをそらで言えるほどよく知っていた。それなのに、これまでまったく気づいていなかったある一節があったのだ。『国家』 第八巻のなかにある一文を発見して、彼はおののいた。 それを読み、意味を理解したとき、エルゴは凍りついた。「人間の臓物を味わったものは、オオカミにならなければならない」。そう、まさにそう書いてあった。 エルゴ・スムは立ちあがり、キッチンに入ると、キッチンの窓から、塀に囲まれた景色を眺めた。そしてこの文を、自分は故意に忘れていたのだと考えた。」(236頁)
「光は、人と動物の心のなかに生きている。隠れ住んでいる。冬眠するみたいに、木箱に詰められて。月は移動する船だ。死んだ人の魂を、地上から太陽へ運ぶ。月の前半、月は、魂を集めていっそう明るく輝く。 そして満月に向かう。月の後半、魂を太陽に引き渡すので、新月に向かって、月は荷を降ろし、ふたたび空っぽになる。地球と太陽のあいだにある真空の月は、次の使命に備えている。銀色のタンカーみたいに。」(370頁)
※ちなみにBL要素は全体の1%くらいです。パスハリスの話のさわりがそういう感じというだけなので、過度の期待は禁物です。