最近というか、年が始まってから何かと忙しくて何処からも離れてしまっていた。ノートの中はもちろん、ここの白い場所もすっかり白一面になっていた。何処にしろ人が手入れをしないと荒れてしまうものである。
そんなわけで、少し昔に見た夢を今日はここに書くことにする。君はここがカラフルになるように今から書く文字を元に、ここに描いて欲しい。
夢で行ったこともないのに行ったことあるどころか立ち馴染みのある海辺の町で、私はポツンと一人部屋の中で立っている。当然ながら行ったこともないところなので知らない部屋だ。窓からは白い朝日と磯の香り、そして色づいてるようで色のない海辺の町の景色。簡単にいうと想像は出来るが実際には全く色がついていない……という何とも奇妙なことになっている。
ただそこにいるのもなんだから、部屋を出て居間のようなところに行くと、
「なんだ寝ぼけた顔して。散歩でもしてきたらどうだ」
そうたぶん同居人なのだろう、姿の見えないおじさんに声をかけられる。記憶も無いし、特に決まったこともなさそうなので私は町を散策することにした。
緩やかな坂道、見知った花壇の花、潮風で錆びた所々まだ塗装の残っているフェンス。フェンスの奥にある線路を目で追えば、いいところに短い電車が通り過ぎる。電車を追って海の方角に進めば、これまた姿の見えない猫が私に付いてきて、立ち止まると脚の間を数回するりするりとくぐってどこかへ消える。
しばらく真っ白な民家の集まりの小路を彷徨うと、浜に出た。奥にはもちろん海がある……のだが、真っ白というか透明な波は果たして海といえるのだろうか?音も匂いも色以外は海そのものだが、あの沢山の青がない海を海といってもいいのだろうか……?
私は何の躊躇もなく、家に帰ってきた様に自然的に海へ向かって行った。足、足首、脹脛、膝、腿……と海に浸かっていく。波に追い返されることも無く全身が海に浸かり、漂う。
──。───。
ベタつく海水、脳裏に響く波の音。
私はとぷん、と海の中に入る。深くもなく、かといって海から出ない程よい浅瀬で沈んでいる。ただでさえ色がないのに、水の中に入ってしまうと匂いも音も消えてしまった。もう何処で何をしているかさっぱりわからない。しかし、それがその時の私にはちょうど良かった。
──しばらくすると、私は帰ってきたのか見知らぬ居間にいる。海に入っていたわりには何処も濡れていないのが不思議だな…とか思いながら立っていると
「なんかすっきりした顔をしてるな。目が覚めたなら朝飯にするか」
と同居人のおじさん。ちらりと窓の外を見れば陽が多少昇ったものの、まだ朝なようだ。おじさんが作ったのか朝ごはんの匂いがする。
あれこれ思うところはあるが、何気ない平和な日常を見ると考えるのがアホらしくなり、私は席に座って朝ごはんを食べ始めるのであった。
……ん?
描くにしては結局色が紙の色一色しかお話に出てきてないって?
いやいや、私のその夢には色がないだけでお話に出たものはそれぞれ思う色があるでしょう?その色で描いてくれればいいのです。
君はこの景色たちをどんな色で塗ったのかな。お話の通り無色?それとも現実で見慣れた色?それとも……
久しぶりのお話はここでおしまい。