──そう、だだ人が忙しなく歩いていく中、私は信号が変わるのを待ちながら月を見ていた。
本来なら信号がいつ変わるのかをいち早く確認する為に、進むのとは逆向きの信号を見るだろう。違う方の車道の信号が変わればこちらもすぐ変わって渡れるのだから。
しかし、私は車が通り過ぎる風を受けながら月を見ていた。何、特別なものでも特別な日でも特別な月でもない。冬の雲すらない真っ黒な空にポツンとある白い三日月だ。
それが綺麗に見えた。
見ていた理由はたったそれだけだ。その時間は一瞬で終わり、何事も無かったかのように私は街のあらゆる人と同じように青い信号を見て歩き始めた。
春の桜が舞う中に見る、優しく映る白昼の月。
夏の青い香りのする風を浴びて見る、提灯の灯りでやや霞む祭りの夜の月。
秋の虫の音を聴きながら見る、これでもかとまん丸な満月。
そして、何にも邪魔されずにただずむ冬の月。
……そうだ。家を買うような時が来たら、西にベランダか大きな窓があるような家がいい。