小さな祭りと大きな世界

樋口 叶
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昨日と今日、私は初めて創作イベントに参加した。簡単に言うとコミケだとかコミティア的なものだ。そんな感じの1つのサーバー内限定で行われた小さなイベントである。

そもそもイベント参加自体が初めてだというのに、皆が出し物をしているからと無理して背伸びしてサークル参加までしてしまったのである。一次創作を推奨したサーバーだというのに許可の出ている二次創作での参加。異端中の異端な行動だ。

ピクリエという未知のオンラインイベント用サイトを使って、自分のアバターからサークルのテーブル、サークルカットやお品書き、サイトの準備など全てが全て何も分からない手探りでちまちまと作業を進めていく。

「これはこうすればいいのかな?」

「皆のはこんな感じの出来だから、サークルカットはこの形でいいのかな」

…と、まあそんな感じに下手くそながら形にしていった。途中、春の寒暖差や黄砂など体調不良にやられたりしながらなんとかサークル設置たるものをしてみたのである。

ヒィヒィ言いながら、なんとか当日に最低限の準備を済ませた私は、当日の開始時刻とともにイベント入りをした。開始のテロップとともに数多くの個性豊かなアバターたちが次々と目的のサークルに向かって走り出すのである。そのおかげか始まってすぐはサークルページを開いて閉じるだけで毎回処理落ちするほどである。皆と同じように私も処理落ちと戦いながら、知り合いのサークルを回っていった。

イベントの定番の形をしたテーブル、自創作の世界観をモチーフにしたオリジナルのテーブル。振り返るとテーブルの形に囚われない鞄の形のものや、キッチンの形のものなどもあった。オンラインで全てがデータ上のイベントだからこそ出来る、概念をぶち壊した設置方法に私は世界の広さを見た。

もちろんそれだけじゃない。

無配がネットプリントであったり、PDFデータであったりと配るものも買うものも何もかも新鮮であった。

一次創作サーバー故の数多くの素敵な作品たちに、財布の紐が硬い私ですら3000円を超える買い物をしてしまった。1番数多く買った人は何万と消えていったことだろう。リアルイベントのように実際に物を持って買うならば自分の持てる数だけだが、商品全てがデータや後日配送によるオンラインイベントでは手が嵩張らないので、金がある限り買い放題というやつである。……恐ろしい。

そうやって初のサークル巡りをしていた私だが、もちろん自分のサークルの具合も見なければならない。私はひとことポストという、リアルイベントでいうところの感想のページを開いた。正直、初日は過去作品の展示しかしておらず、また展示物も二次創作作品なので来る人なんてほとんど居ないだろうと思っていた。

しかし、実際にポストを開いてみると「可愛いイラストに癒されました!」「見逃していた作品もあったので、楽しく見られました!」「明日公開予定のネットプリントや漫画楽しみにしてます!」…などなど、数々の嬉しくもありがたいポストたちで溢れていたのである。ネットプリントや漫画など原稿落ちに近い遅刻っぷりをみせたにも関わらず、ポジティブな言葉たちでポストの中はぎゅうぎゅうであった。私は時間がある時にそのポストたちにありったけの感謝を込めて返事をした。

その普通のイベントでやることだけでも充分楽しかったのだが、イベントの運営さんは気を利かせて決まった時間での集合撮影会やホワイトボードのフリースペースなど本来のイベントには無いだろうオリジナルのイベントまで開いてくれた。まさに至れり尽くせりというものである。

私も参加できそうな時にはホワイトボードに書き込みをし、撮影会にも2、3回ほど参加した。サークル参加者や客の参加者、サーバー内のあらゆる人たちが集まってリモートを送りながら撮影時間を待っている間はオフ会のような「知ってる人に初めてあった!」という楽しさがあった。

そんな温かい空間で気持ちがほかほかになった私はそのパワーによってなんとか夜にネットプリントと漫画を出せる形にまで描き上げれたのである。すごい話だ。

そうやってイベントを楽しんで、原稿と戦っていたらあっという間にイベント期間は終わりを迎えようとしていた。最後の撮影会に向けて人が集まってくる。皆同じようにこの時間が終わるのを惜しんでいたのか、普段は挨拶やハートなどのリモートだったのに、泣いたりするリモートで溢れていた。私も最後の最後になって個別の撮影会をしたり、握手をしてまわったりと後悔のないように挨拶していく。

惜しんで、惜しんでの皆だったが、最後の撮影ではしっかりハートのリモートで笑顔で(アバターなので表情というものなんてないが)シャッターを切った。

閉会の時間にはサイトからは追い出されたものの、TLでは「ありがとうございました」「次回があったらよろしくお願いします」「イベントは終わったけど通販はやってます」と終わってもなおイベントが続いているかのようなお祭り騒ぎっぷりであった。

とあるSNSの小さなサーバーによる小さなお祭り。けれど、皆の作品への気持ちや優しさ、イベントの最先端さは大きな世界だったと私は思うのであった。

──みなさんお疲れ様。そしてありがとう。またイベントがありましたら是非とも会いましょう。

その気持ちだけ残して私は日常へ戻るために寝るのであった。

@onihime0429
素直になれない自分へ送る、素直になるちょっとした努力を。 普段はMisskeyDesignにいるよ (misskey.design/@onihime0429)