AIが「当たり前」になった日常
日々の仕事の中で、生成AIに「この仕様を要約して、TODOにして、実装方針のドラフトも書いて」と投げる。
あるいは「こういうアイデアに対して、こんな方向性で進めたいから文章を考えてほしい」と投げる。
数十秒でそれっぽい文章が返ってきて、淡々と作業を進めることが多くなってきた。
手触りとしては快適で、仕事が前に進んでいる感覚もある。
進んでいるのに、育っていない違和感
でも、同じことを続けていると、ふと気になるポイントが出てきた。
進捗は出ている。成果も出ている。
でも今までの「自分自身で探して気づきを得る」感覚が残らない。
むしろ、探して気づきを得ることや考える前に答えが出ることが多くなった分、判断の筋肉が細くなっていくような感覚がある。
要約も提案も立派なのに、最後に「じゃあ、何を信じて決める?」という判断軸の言語化だけが自分に戻ってくる。
「労働」と「仕事」を分けて地図を作る
ここで一度、AIが得意だと言われていることを整理しつつ、人間が引き受けるべきことを分けてみる。
AIが得意なのは、手順化された処理や、情報を整える作業。いわゆる「労働」と言われる領域。速いし、安いし、疲れない。
人間が引き受けるべきなのは、価値判断や責任、関係性の調整、そして「何を問いとして立てるか」といった、「仕事」の領域。
最初のふとした疑問は、整理してみると、AIが「労働」を肩代わりしてくれるほど、従来「仕事」に必要な素材まで一緒に削れてしまうことが増えてきた、という問題につながると感じている。
労働を任せるほど、仕事の栄養が削れる
必要な素材とは、どんなものなのか?
たとえば、曖昧な違和感を言葉にする前のモヤモヤ、仮説が外れて前に進みにくくなる経験、他者と噛み合わない会話の摩擦。
仮説が外れたときに立ち止まり過ぎないように、まずは自分の考えを整理して、相手と噛み合わせやすくする。
そして、噛み合わない会話のうち「消耗する摩擦」は、場合によってAIで要点整理したり、表現の角を取ったり、論点を分離したりして減らす。
こういうものは非効率で、できれば消したくなる「仕事」だ。
摩擦の仕分け「守る摩擦/捨てる摩擦」
でも実は、創造性や成長にとっては、ここがいちばん栄養になっていることも多い。
一方で自分が減らしたいのは「意味のない摩擦」で、残したいのは「意味のある摩擦」——この線引きが、AI活用を成長につなげる鍵になる。
摩擦は敵ではなく、全部が味方でもないので、守る摩擦と捨てる摩擦を先に決めてからAIを使うようにしている。
「意味のない摩擦」「捨てる摩擦」は一旦「労働」に置き換えてしまうことで、「仕事」から解き放つのもありだなと感じ始めている。
二極化から降りる「AI前提で設計する」
最近、AIに頼ること自体をやめるほうがいい、あるいはAIに頼るほうが良いという二極化した話が多いと感じている。
そのような中でも、上の話から「AIがいる前提」で「成長機会が削れない使い方」を設計するほうが健全だと思うことが多くなってきた。
ポイントは、AIに「答え」を出させる前に、人間側で「内省」と「対話」を起こして、創造性の種を残すことだ。
答えの前に、仮説と違和感を外に出す
具体的には、毎回これだけやる。
まず、AIに投げる前に、自分で1行だけ仮説を書く。
「この問題の本質は〇〇で、制約は△△だと思う」みたいな粗いものでOK。
次に、違和感や不安を箇条書きで外に出す。「これって誰のため?」「本当に最優先?」「前提が崩れたらどうなる?」といった、答えにならない問いを残す。
その状態で、AIに頼む。
要約や選択肢を出させるのはもちろん、同時にこう依頼する。
反対意見を作って
前提が弱いところを指摘して
別の価値観ならどう判断する?
他者の視点で見るとどう見える?
AIを代筆者から「議論相手」に変える
するとAIは「代筆者」ではなく、「議論を揺らす相手」として働き始める。
自分の仮説が崩れたり、問いが洗い替えされたりする。
この揺れが、内省のスイッチになる。
そこで初めて「自分は何を大事にしたいのか」や「どのリスクを取るのか」に戻ってこられる。
最後は自分の言葉で決める
最後に、AIの文章を整える前に、自分の言葉で結論を一度書く。
結論は「今回は〇〇を優先し、△△は捨てる。理由は□□」と、短くでいい。
あるいは「ここはこうしたほうが良いな」とか、そんな感じで自分の考えを残す。
ここを自分で書くと、責任の座標が戻る。
文章が上手いかはどうでもよくて、決めたという事実が残る。
この一連をやると、AIがいても「仕事」が空洞化しにくいと感じてきている。
処理は速いまま、判断と学びが手元に残る。
しかも、対話を通じて自分の問いが少しずつ育っていくので、成果物の質も上がる。
短期の効率と長期の成長が、トレードオフになりにくい。
マルチタスク時代のシングルフォーカス設計
生成AIが当たり前になるほど、「何をAIに任せるか」より、「何を自分の成長機会として残すか」が差になる気がしている。
AIがあると、できることが増える。すると仕事は速くなるけれど、同時に案件も増えて、常に並行処理の環境になる。
だから自分自身は、マルチタスクを減らすより先に、シングルフォーカスを鍛える必要があると思っている。
ひとつの問いに入るまでの切り替えを短くして、「思考の連なり」をすぐ取り戻せるようにする。
AIはそのために使う。要点整理、論点の分離、比較、次の選択肢の提示——切り替えに必要な「労働」を減らしてくれる。
成長機会は「減らさない」から「増やす」へ
その結果、並行案件が多くても、内省と対話が起動しやすくなり、決める力が鍛えられる。
マルチタスク環境に飲まれるのではなく、シングルフォーカスを極めてマルチタスクをさばけるようになる。
そうすると成長機会は、削られるものではなく、こちらから取りにいけるものになる。