雨降るある3月の話。むらさきの行方。狂った少女が硬い身体をうならせて踊ったワルツの螺旋系の痕。微かに聴こえる鼻唄。ブラームスのワルツ 39-15。湿った葉脈。ごめんね。ぽっかり穴の空いた眼。瑠璃色の地平線。誰も見た事のない美しい終末。サイレンの音が一瞬、人々の声を沈めて。
「昨日、僕は一匹の虫を殺した。不感症的に。きっとこの先もなにも思わないだろう。」
オオミズアオが産み落とした人魚の粒子。まるで海みたいな涙の中に拡散していく。記憶。忘れてしまった。ルネ。レナータ。モノクロームの背景。表象化してしまった懺悔。干渉縞。スポットライトで目が眩んでいく。
「目の前に並べられた言葉を見て、選びたかったものはなに?」
「トマト」
「どうか羊水のなかで幸せな夢を見てくれていたら、嬉しい」
開けられた窓から目を逸らして、知らないふりをした