幼い頃、偶然手に取った名前も知らない本の中のある文章。
僕はそれに、今でも心を囚われている。
それは、母親の胎内のような安心感と
かつて通ったスイミングスクールのような懐かしさと
今ではもう得られない、失ってしまった鮮やかな記憶を、僕の脳裏にかすかに映し出してくれる。
あの頃の風が吹く。僕がまだ幼くて、この世界について何も知らず、見るものすべてが鮮やかだったあの頃に戻れるような、そんな風。
ただ、希望を抱いていたと思う。
不安はなかった。
春にはお花見を。夏にはラムネを。秋には蜜のように甘い焼き芋を。冬にはクリスマスプレゼントを楽しみに、日々を幸せに生きていたあの頃。
大人になった今、人生においてあの頃よりも多くの楽しみを知っている。
でも、幸せなのかと言われれば、わからない。
お金はある。自由も増えた。自動車免許もあるし、スタバの新作を楽しみにしたりもしている。
でも、それでも超えられない新鮮さを、あの頃以上に得ることができないでいる。
幼いからこその、感受性があったのだろう。