あの頃、あの街で

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ここ最近暑い日ばかりだったから、梅雨の前なのにもう夏のことについて考えてる。

僕が過ごしてきた僕が好きだった夏は、この世界にはもうないかもしれない。

緑が生い茂る自然豊かなあの街。すべてが新鮮で、可能性に満ち溢れてた。何にでもなれた。何も怖くなかった。命なんて今すぐにでも投げ出しても良いとさえ思っていた。

とてもとてもあの世に近くて、「死」は僕の対極ではなく、隣りにいた。

でもだからこそこの世界が今よりもとてもキラキラとしたものに見えていたし、なんだろう、キラキラでもあるしギラギラでもあった。

空は今より青く、雲は白かった。

川を流れる水は光を受けて輝き、僕にはスマホも将来の設計図も、家の鍵も必要なかった。

とにかく僕は無敵で、たとえばパン屋さんに行ったら食べ切れるかもわからないのに店中のパンをすべてトレーに乗せて買い占めてしまうくらい僕は無敵だったと思う。

日焼け止めも塗らずに1日中自転車で街を駆け回って、好きな子はまだあの街にいて、日が沈む頃に体中で受けた生ぬるい風の感覚が何よりも勝り、心地よかった。

ずっとずっとああやって過ごせるって思ってた。不安なんてなかった。自分が今手に持っているものだけで満足して、他に何もいらなかった。

それは何かと比べたときの相対的な感覚なんかじゃなく、僕自身の感覚が満たされていた。

ぼろぼろになった靴で走るアスファルトの道は少し長くて、でも不思議と足はものすごく軽くて。

僕はあの頃からまだ抜け出せない。あの頃の、あの街のまま、僕はその頃から抜け出せない。僕だけまだあの街にいる。大人になれてない。なることが正解だとは思えない。

お金じゃ買えなかったんだ。きっと。子供だったから見えた景色だったんだ。

今の僕があの頃大好きだった本を読んでも、あの頃と同じようには感じられないように。僕はもう変わってしまったし、二度ともとに戻ることはないと思う。戻らないからこそ美しいままの記憶で有り続けるとも思うけど。

僕はどうすれば良い?わからない。わからないよ。

@osanpobiyori
つなぎ合わせる。とじ合わせる。