ミライの源氏物語、まず最初に何に痺れたかって「辞書というものは"この言葉は現代でだいたいこういう意味で使われている"という類型を当てはめたもので、そのとおりに使わなければ間違いということではない。言葉は時代によって変わってきたし、これからもそうだ。」という冒頭の作者の考え方の表明な。
辞書と違う。漢字が間違ってる。この書き方は嫌い。私はこう思うことが少なからずあるし、ある程度辞書に沿った運用は必要だけど、このリベラルなスタンスは持っておかないと世間のいわゆる「頑固な老人」になる、私はそれは嫌だな、と思った。これは新たな発見だった。
著者は一貫してこんな感じで、「世間一般ではこう思われてるけど果たしてそれはどうなん?」みたいなスタンス。
だから上記のように言葉の意味が変わっていくことも肯定するし、一方で「高齢者は表舞台から退け、若い人に時代を任せるべき」のような考えもエイジズムだとして疑問を呈している。
そうした現代にも通じる諸問題を源氏物語の各章に当てはめて解説してくれてる、ものすごい新たな視点の源氏物語の解説書。これフェミニズムとか興味のある人にはたまらんよ。
Xのポストにも書いたけど明石の君の「産んだ子供を育てられない」つらさの現代語訳は短いながらも泣かされたし。
宇治十帖?なんか宇治十帖?っていうの?くらいの知識しかなかったんだけどさ、ここのコラムすごい良いの。
紫式部は決して最新の考え方を持った超人ではなく、平安時代にあった差別的な考えは当然持っていた。
けれど、浮舟は「人として」生きようとして終わった、それは紫式部の書いたラストだと思う。という著者の考えがすごく好き。
一方紫の上は実質ヒロインだけど、決して成功したヒロインではなかった。(と書いてたと思う、今勢いで描いてるので違ったらごめん)
桐壺更衣は冒頭で早逝し、身分も低く決して幸せな人生ではなかったけどその後の物語に大きな影響を与えた。(それほど素晴らしい人物だったのだろう。)
小難しくてややこしい恋愛譚だと思ってたけど、登場人物魅力的なんだと初めて思ったししっかり読みたいと初めて思った。
いつか源氏物語の現代語訳をするのが夢と著者プロフィールに書いてあったけど、ぜひ実現していただきたい。読むわ。