橘の日記

pan_juho
·

夏はスイカ、スイカと言えば夏なのである。

しかし、スイカは高い。私はいつもお世話になっている、いかにも地元のスーパーといった風情の「スーパーぐりーん」の果物コーナーでうなり声をあげた。何というか、このスイカを買うくらいなら我慢している夏物のワンピースを買った方が良いような気がしてしまうのだ。だって、スイカは食べたら無くなってしまう。それに、まだ5月なのだ。急に夏っぽい気分になったからといって、スイカを買うというのは……。

そう考えていると、小学生の頃の光景がふと蘇ってきた。春になると桜の葉をもいで口に入れ、桜餅の風味を味わった。ツツジやホトケノザの蜜も手当たり次第に吸い付くした。

それに比べて大人ってやつは、なんと不自由なんだろう。法に触れるでもないのにそのへんの葉っぱを食んだり花の蜜を吸い難くなるんだ。何かが邪魔をするんだ。私は大して何も変わらないのに。なんだか悲しくなってきちゃったな。

「えへんっ」

気合いを入れるために咳払いをして、私はスイカを手に取った。小玉だ、もちろん。小さな夏なのだこれは。持ってみるとしっかりと重い。スイカだけを持ってレジに行く頃には、なんだか誇らしい気持ちになってきた。

「袋は要りますか?」

にこやかな人当たりのいいおばさんに尋ねられ、ついいつもの癖で大丈夫ですと答えた。スイカを持ってから今日はエコバッグを忘れたことに気付く。あーあ、やっぱり私はあんまり成長してないみたいだ。

赤子のようにスイカを抱えて、初夏の木陰を縫う。まだ風が涼やかで気持ちがいい。

家に着くとさっそく一番大きな包丁でスイカを真っ二つに切った。大人になったら大玉のスイカを一人で食べると意気込んでいたけど、私は我慢できる。大人なので。残した半分はラップをして冷蔵庫へ。

旬でなくてもスイカは十分に甘くて美味しかった。農家さんの努力の結晶だ。心の中で農家さんに敬礼。うまい。私は大人なので種も全部飲み込む。大人はヘソからスイカが生えない、父がそう言っていた。

スイカは美味しかった。結局、もう半分も食べてしまおうと思ってさっき仕舞ったばかりの、ラップが掛かったもう半分を取り出してスプーンを握り直す。

それから、もしかしたら大人の方が自由なのかもしれないとふと気が付いた。