美学美術史という学科 その1

巳月
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公開:2025/7/27

文学部の美学美術史学科を卒業した。人の理解を得るために説明するのが困難な学科である。学生時代に何を学んだかという話になり、「美術史です」と言ってもピンと来る人はまずいない。「美術史」という学問はおろか言葉そのものが世に浸透していないため、描いたり創ったりする実技系統の学科を卒業したものと間違えられる。

そこで「実技を勉強する学科ではないんです」と説明するが、「実技ではない美術」とか「『美術史』です。美術の歴史!」と言っても「あ~そうですか」とすぐ合点がいく人はおらず、「何それ?」と却って話がややこしくなる。無理もない。私も当事者でなければ「ハア?」という感じだ。

なので「例えばですね、『イタリア・ルネサンスとドイツ・ルネサンスの違いは何か』とか、『平安時代から鎌倉時代にかけて仏像の様式がどのように変化して行ったか』とか、『この絵画作品は作者が不明だけれども、これこれこういう技法を使っていてどういう特徴が見られるから何世紀の誰々の工房作と思われる』とか、そういうことを学ぶ学科です」と具体的な事例を付け加える必要がある。くどい。

学んだ内容ではなく、卒業した学部の方を訊かれた場合も厄介だ。「文学部を卒業した」と返答すれば、夏目漱石とかシェイクスピアとか、訊き手は自然とそういうものを思い浮かべる。で、文学部で何を勉強したのかという問いに対して「美術史です」と答えると、「えっ!?文学部で美術ですか???」と仰天されこちらもまた面倒な話になってしまう。

もっと簡潔に一言で説明出来る方法はないものか、卒業して何十年も経つのに未だ模索中だ。

@phlox
美術史出身の元学芸員。 運営コンセプトが陰キャにぴったりだなーと気に入ってブログから移行しました。どうでもいいことばかり書いています。