山形浩生さんの「翻訳者の全技術」を読んで

Yosuke
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公開:2025/4/7

読み終えたし、来週オンラインイベントもあるので、感想を書いておくことにする。翻訳の小手先の技術という話ではなく、何が山形さんを形作っているのか、好奇心の赴くままに色々なものに関心を持って踏み込んでいくのは楽しいぞという本だと受け取った。積ん読に対する力の入ったコメントも非常に耳が痛く、面白かった。

自分が山形さんを最初に認識したのは、本書でも何度か取り上げられている『クルーグマン教授の経済入門』である。2001年発行の9版なので、大学2回生のときに大学生協で買ったのではないかと思う。カジュアルで非常にストレートな表現が印象的だったのを覚えている。いま「あとがきと解説とか、そんなもの」を読むと、とても重要な姿勢が書いてあった。

そして最大の原因は、既存の訳者たちが読者のほうを向いて翻訳してないってことなの。実際に目の前のだれかに何かを説明しようとして、何かを伝えようと考えて翻訳してない。翻訳を、紙の上だけの単語の置き換えだと思ってる。ことばには、文体やニュアンスや躍動感があって、それも大事な伝えるべき「意味」の一部だってことがまったく理解できていないんだ。

20年以上経って出た本書でも同じ姿勢で全然ブレない安心感がある。

山形さんといえば、『伽藍とバザール』シリーズやレッシグの翻訳は外せないだろう。1週間なら誰でも世界一になれる、の例として紹介されているが、この分野に果たした役割が計り知れないと思っている。バザール方式という具体的な話だけでなく、そもそも情報を秘匿せずに公開するとなんかいいことあるかも、なくてもいいけどとりあえず公開しておこう、みたいなインターネット(端末の向こう側)に対するふわっとした信頼・期待感、オープンカルチャーのような概念は今も自分の根底にあるし、多大なる影響を受けている。

今知ったが、リーナス・トーバルズやリチャード・ストールマンにメールや電話でインタビューしていたのか。1998年の情報としてこれが出てくるという時点で、目の付け所がすごいとしか言いようがない。

もう一つ多大なる影響を受けたものとして『The Economist』が挙げられる。本書ではオカルト雑誌の解説の方が力が入っているけれども、これまでに何度も取り上げている。特にこのSo be itの解説は名文だと思う。

当時山形さんの影響を受けてThe Economistを頑張って読んで身に着けた英語力がなければ、その後シンガポール国立大学に留学できてないかもしれない。TOEFLを何度か受けてもダメで、IELTSでReadingのみが謎に高得点で何とか最低ラインを越えたので、わりと本気でそう思う。

本書の内容に戻ると、この辺はもはや共感しかなかった。

  • 「工学部なので問題が解ければいいのだ」

  • 「貧乏旅行好きとして世界中のいろんなところをうろうろしてきた」

  • 「ただ知りたいことがある、やったことないことをやってみたい」

  • 「数字だけを見ているとここで終わってしまうけど、それだけじゃダメで、実際に中に入ってみないと何が起きているかはわからない」

  • 「おおまかにさえわかればいい。精緻化にはあんまり興味がないのかもしれない。というか、変な精緻化には敵意さえある」

共感というか、大学生の頃から様々な形で影響を受けた結果今の自分がいるわけで、当然なのだろう。そんな山形さんに何を聞こうか。