14:30を過ぎた頃。八重洲にあるオフィスビルの地下駐車場から上がると、雪は紙吹雪のように音もなく地上に降り注いでいた。朝、上司に車の運転に注意しろよと注意されていたし私はそもそも運転が好きではない。ドリンクホルダーに刺していた飲みかけのレッドブルで喉を潤して気を引き締める。左手でレバーを二つ押し下げると、ワイパーがキイキイと鳴きながらフロントガラスに付いた牡丹雪を払いのける。
初めは慎重を期してそろそろと走っていたが、帰りが遅くなるのも嫌だったので結局普段とあまり変わらない速度で車を走らせる。永代通りから新大橋通りに入る。巻き込み確認のため目線を←にやると、黒いコートを着た同年代と思わしき女がタクシーを追いかけていた。おそらくヒールを履いていて足元も悪いのだろう。走り方が昔のアシモみたいで滑稽だった。どうか転ばないように。
水天宮を通り越して新大橋が見えてきたあたりから交通量が次第に減っていき、目の前を走っているジャパンタクシーの黒いハッチバックと私の運転している車しか走っていないのではないかという時間があった。無音の車内。目の前の箱型の乗り物。降り注ぐ大粒の雪。ここは都心なのにまるで人気のないスキー場で一人リフトに乗っているかのよう。オレンジの陸橋を渡りながら、雪みたいに空の上から東京の景色をひらひらと楽しみたいと思った。身体はふわふわしているので、ゆっくりと地面が近づいてくる。地上に落ちてもきっと痛みはない。