一縷の望みに賭けた

カフェイン
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ほどよく薄暗い店内。私と彼女は金属製のスツールに横並びで腰掛けている。並びのカウンターには若いカップルに女性二人組。奥のテーブルは職場の集まりなのか年も性別もバラバラな集団がワイングラス片手に楽しそうに談笑している。

彼女は私が渡したクリアファイルをLL Beanのキャンバス地のトートバッグにそっとしまった。クリアファイルには私が早朝に新宿区役所で貰い、自分の項目だけ記入した婚姻届が入っていた。

「この数日間の展開の振り幅が大きすぎるから、気持ちを整理する時間が欲しい。」

けど、そう言う彼女の口角は少し緩んでた。

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彼女の家に置いていた本や漫画を受け取るために日の暮れた吉祥寺駅に降り立った。京王井の頭線のホームには帰宅途中のサラリーマンでごった返している。改札口を通過。道ゆく人たちの間をすり抜けてアトレ前のJRの改札口付近で立ち止まる。Barbour のコートの右ポケットからiPhone を取り出した。緑色のメッセンジャーアプリを立ち上げて、親指で文字を入力。紙飛行機マークを押下する。

「お腹空いてる?」

ピコン

「お腹はそこそこ!私は一緒に飲むつもりだったよ←」

何度かメッセージを往復したうえで私たちは2年前に初めて出会ったスペインバルに行くことにした。私たちの始まりの地。

私たちの仲は食事を共に出来なくなるほど破綻したわけではない。かと言ってお互いの家を気軽に行き来するくらいの親密さはなくなっていた。

二つ折りのA3用紙一枚に想いを載せて届けることはできた。答えはまだ、わからない。

@piyogator
いっつも目がしょぼくれてる