少し薄暗いリビングルーム。色とりどりのアロマキャンドルに灯った火がエアコンのコーコーという花粉混じりの風に合わせてゆらゆら揺れている。私は部屋の中央にあるソファに深く腰掛けて膝は体育座りのように少しくの字にしながら、Kindleアプリで小説のテキストを眺めている。
何分、いや何十分経っただろうか。隣の部屋から微かに話し声が聞こえてきた。私はiPhoneをソファの脇に置き、無意識に姿勢を調えて聞き耳を立てる。どうやら眠りにつくべき人がまだ寝つけずにいるようだ。彼はいつもなら寝ている時間なのに起きていることをたしなめられているようだ。薄い引き戸越しにピリッとした空気感が伝わってくる。
結局、彼はそのタイミングでは寝付けずにリビングルームに戻ってきた。プラスチック製の電車に新幹線。何種類あるか分からない働く車たち。眠れないのなら、と言って一緒に遊んでもらう。少し時間が経った頃、ふいに彼が床にあぐらをかいている私の足の上にとさっと乗っかってきた。久しぶりに間近に感じるあの独特な甘い匂いと柔らかさについ後ろから抱き締めたくなる衝動に駆られる。それはもう一度子育てに関われるのか、と問われているようだった。踏み込む覚悟はありますか、と。