表紙に惹かれて読んだ。私は初めて知った作者だし、舞台の英国コーンウォールの事も全然知らない。だけどすごく懐かしい雰囲気を持ってる本だった。かなり好き。
短編が12編載っててどの話も良かった。特に好きな話は『緑のこびと』『カササギ』『精霊たちの家』『語り部の物語』かな。
話の内容は全て現代社会で暮らしてる人たちについてだけど、そこにごく自然に妖精とか巨人とか願いの叶う木とかが登場するところが好き。
個人的な感覚でファンタジーって生々しい生活臭の無い人たちが登場人物になるって先入観があったけど『潜水鐘に乗って』に出てくる人たちは生活臭があった。それが現実とファンタジーが地続きになってる感じで、不思議な心地良さを覚えた。
『カササギ』に出てくる主人公は妻帯者だけど、昔の恋人によく会いに行って住んでる田舎の町を良くも悪くも思ってない、みたいな。清廉としてないところが良い。
『精霊たちの家』だと、精霊が家にやって来る人間を観察して、時々愚痴っぽいこと言ったりする。ファンタジー側が逆に生活感出すのが何か切なくて良かった。
生活感で言うと、その極みが最後の『語り部の物語』だった。
何百年と物語を紡いできた語り部が日銭を稼いで不思議な話たちを人々に教えていくけど、話を途中で忘れてたりする。不変のものだと思ってたファンタジーが普通に生死のあるものとして語られて、そこへ作中の他短編の出来事を匂わす話もあって、この本の最後を締めくくる話としてジーンとした読後感に浸れた。
『緑のこびと』が独特で、二人称の"あなた"で語ってくるのが面白かった。
勝手に読み手である私の思い出とか感覚に入ってくる感じが今まで読んだことない感じだった。
でも何故かそれに懐かしさがあった。
私は子どもの頃にコティングリー妖精事件にドハマりして、妖精や小人が出てくる映画をよく見てた。その見る映画には好みがあって最新のCG映画じゃなくて、古い映画の方を捜して見てた。
今じゃ映画のタイトルも覚えてないけど、その映画のことを思い出した。
『潜水鐘に乗って』は総じて、ぼやっとした映画の場面みたいなのが頭へ浮かんで、妙な懐かしさと良い話だなぁってしんみりする本だったな。また折に触れて読みたい本だと思う。