小川洋子と川端康成の本。何となくその時の気分で選んだけど、両方が偶然にも主人公が過去、記憶を辿っていく話だった。
見出しでそれぞれ感想を書いてこうと思う。
凍りついた香り /小川洋子
主人公の恋人である調香師が突然自殺して遺された彼の私物や記録から、何故死ぬまでに至ったのか辿っていく話。
主人公が現実の時間で恋人の跡を辿っていくパートと、過去を思い出して顧みるパートが章ごとに重なるように書かれてて、読んでて主人公の感覚やその時の香りが染み込むみたいな展開だった。その香りが冷たいというか、寂しい感じで読んでてしんみりした。
小川洋子の作品をいくつか読んで個人的に感じ取ったのが、人間の思い出や感情といった概念みたいなのを、誰でも手に取れる物質とかに変化させるのが上手いなという事。
そういった概念の物質化は割と非現実的な展開だけど、違和感なくて比喩としても取れるくらいの表現だったりで、そういう処置を通して見る登場人物の感情等が全て楽しいものじゃないのが良いなと思う。
人間の底にある、ちょっと心寒くなる本音みたいで哀愁がある。
実際この凍りついた香りで読んでいく調香師の過去や人となりもそんな感じだった。
自殺した、というよりその人の記憶だけ残して違う次元に行ってしまった、くらいの侘しさがあった。そこで思い出したのが映画の『海の上のピアニスト』だった。
生涯陸に上がらなかったピアニストが自分の人生観を語ったシーンを思い出した。
「ピアノの鍵盤には限りがあるけど、陸は無限に続いててそこから答えを選ぶなんて出来ない」
みたいな事言ってたと思う。調香師の彼も似たような天才だなぁ、と。それで違う次元に行ってしまった。遺された人たちにとっては、やるせないけど…。
みずうみ/川端康成
綺麗な女をみたら見知らぬ相手でも跡をつけてしまう男の話。
みずうみっていうのは男の故郷のみずうみで、そこで死んだ初恋の女の幻想を引きずってる。
男は誰かの跡を追ってはいるけど、時々浮かんでくる過去の幻想や自分の抱える後ろめたさに寧ろ追われてるっていう表現がチラっとあったのが好き。
見知らぬ女を尾行して罪の意識はあるけど、脅かすためにしてる訳じゃなくて特定の人間同士が持つ暗さに惹かれてるのかも。
概ね主人公の行動原理は理解できる。でも割と他責な考え方だし、現実で実行したら犯罪だな。そして都度でとっさに出る発言が結構気色悪い男だなとも思った。
やっぱ赤の他人を尾行するのはダメですよ。