綿谷りさ「嫌いなら呼ぶなよ」に収録されている「神田夕」という短編が好きだ。
主人公「ぽやんちゃん」は神田というYouTuberのファン。動画にコメントを残して本人からいいねが来たら喜び、神田がやらかしたら苦言を呈するようにアンチコメントを残したりもする。そんなある日、バイト先の居酒屋に神田本人が来店して…という話。
まずぽやんちゃんのヤバさがおもしろい。粘着っぷりが怖いんだけどコミカルで、それでいてリアル。ガチでいそうというかたぶん居る。たくさん。
そしてそれに対比するように、神田の生きざまが潔くてとてもかっこいい。目標にしたいくらい好き。
仲間から「アンチコメけっこうひどいけどどーする?法的措置する?(意訳)」って聞かれて、盗み聞きしているぽやんちゃんは「私のことだ…」ってなるんだけど、神田は「ほっといていいよ。見てないし(意訳)」と答える。
そして芥川龍之介「蜘蛛の糸」のカンダタの話をする。下を見たせいで糸を登ってくる亡者を見てしまい、振り落とそうとして再び地獄に落ちたカンダタの話。
だから神田はアンチコメなんて見ない。
つまりぽやんちゃん渾身のコメントは本人にひとつも読まれていなかったし、きっとこれからも永遠に読まれない。存在すら認知されない。
残酷だけど健全なことだと思う。
そして最後までぽやんちゃんの所業は明るみに出ることなく、神田はそれに目もくれないで活動していく。この結末がすごく現実的で好き。
やっぱ神田かっこいいなー
神田が語る某皇族の結婚についての話も「あー、わかる」ってなったし
いろんな人の脳内を覗ける時代だからこそ、あえてそれを見ないって重要なんじゃないかと思う。知らないことは無敵だから。
やっぱ「見ざる聞かざる言わざる」って真理だわ