映画「1ST KISS」感想

よる
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公開:2025/3/6

「人間は現在だけを生きてるんじゃない。5歳、10歳、20歳、30、40、その時その時を人は懸命に生きてて、それは別に過ぎ去ってしまった物なんかじゃ無くて。だから、あなたが笑った彼女を見たことがあるなら、彼女は今も笑ってるし、5歳のあなたと5歳の彼女は今も手を繋いでいて。(中略)幸せな結末も悲しい結末も、やり残したことも無い、あるのはその人がどういう人だったかっていうことだけです。」

/ 「大豆田とわ子と3人の夫」より

いきなり別作品からの引用でごめんなさい。この言葉が、この映画を端的に示す言葉だと思ったから。

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どんなことを書けば、この映画を見た私の胸中の感情を表せるのだろう。分からない。複雑なようにも思えるし、実は一つの単純な言葉にできるような、そんな気もしてくる。分からないから、全て書こう。言語化に真摯なきみに捧げる。

ミルフィーユみたいに積み重なった時間を、捻れてしまった彼との仲を、取り戻したくて繰り返すループの話。どう足掻いても駈は死んでしまう。それでも彼がカンナを愛していた過去は、ループによって辿り着いた、愛し合ったままの未来に繋がっているなんて、うつくしいタイムリープの結末だとおもう。なにより、なにより、何気ない餃子というアイテムが、駈にとって、カンナを、夫婦を想っての贈り物であった、その愛情の証拠であった、それをカンナに開示できたことだけでも、このループは会話は愛情は、無駄ではなかったと、心があたたかくなった。

つらかったシーンの話をしよう。最後のループ、はじまりのホテル、ソファの上で自らの最期をカンナから聞く駈が、「かっこいい死」だと満足していたこと。カンナの目線で考えると、すごく切なかった。このひと、どうあがいても死を選び取るね、と。なのに「また君に出会える未来を選びたい」なんて、そんな、そんなあまりにも我儘で自分勝手で美しくて素敵な言葉を云われてしまったら。

ラストシーン。2つに分岐した未来。駈の死によってタイムリープの仕組みは守られたわけで、切なくも愛おしいふたりのやり取りだ。手紙に遺された全てのことば、『おはよう。おやすみ。おかえり。ただいま。ありがとう。』(この読点のこだわりよ!あまりにも駈のことばで涙があふれた)これはたしかな愛のしるしだ。あなたがひとりでも淋しくないようにと、駈が遺していったもの。

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分かっていたけど、坂元裕二の当て書き、ほんとうに凄いことだ。駈は不器用で真面目で、でも決して臆病ではない、真っ直ぐな人。それってきみの形容でもある。どうしてあんなに意志の強い、一本筋の通った人間が似合うのだろうねと考えた時、まさにきみは初志貫徹の人間であるから、だから…。

たとえば、駈の手紙は、きみのブログを読んでるときの心地と一緒で。きみを知らない日の過去も、きみとの出会いを愛おしく思う今も、遠く不明の未来も、わたしの「好き」は変わらず、いつもきみの存在と共にあって、そのままで良いと肯定してくれる。そういう作品であった。そのことは、きみの存在にそっくりだ。

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鑑賞中ずっと頭の片隅にあった言葉は、「ここに連れてきてくれる、きみに出会えてよかった」だった。あなたが幸せならもうそれで最高の人生!そう言える人物に出会ってしまったと、長らく思っていて、その感情はまるで手紙で示された駈の言葉そのものだった。

「きみを好きになる人生で本当によかった」

この作品は家族の、夫婦の話だったけれど、人間関係すべてにすこしずつ通ずるものがある話でもある。アイドルとファンダムの関係性も。初めてきみをみつけた日やグループの音楽を聴いたときのときめき、きらめきを、忘れてしまったらどうしよう。そんな不安に駆られたら思い出したい言葉と出会った。「淋しいも好きから始まる」全ての感情は巡り巡ってつながっている、だから大丈夫、消えずにどこかで残っている、過去と現在と未来は同じ場所にある。わすれても、わすれない。そういう奇跡を見たような、気がする。

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「ひとりのなかにいくつもあって、どれも嘘じゃない。(中略)選んだ方で正解だったんだよ……そっちを選んだから、こんな素敵な娘が生まれて、孫も生まれて、夫にも愛されて、生涯幸せな家族に恵まれたわけでしょう?」

/ 「大豆田とわ子と3人の夫」より

駈には色んな未来があっただろう。研究を続ける未来、教授の娘と結婚する未来、カンナと出会わない未来。彼に用意されたのは、カンナと出会い、愛し合って結婚し、研究を辞め、やがて仲は拗れ、離婚して、ひとり死にゆく未来であった。それでもやっぱりカンナを愛したから、駈は、ふたりは幸せだった。彼は幸福な15年間を全うした、だから、これで良かった。あたたかな祝福を贈る。

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ちゅん。いつか消えちゃう私は、地球の時空の中で、松村北斗という人と出会えて、1STKISSという映画と出会えて、ほんとうに良かったと思っている。ありがとう。きみに出会えて幸せ。

「1ST KISS」

@polaris_6
(ポラリスへ) わたしのしらない きみだけのよるが きみにとって うつくしくやさしいものでありますように きみがなにをしてもすき