【あらすじ】
人類の大半がスペース・コロニーに移住した世界。
会社の健康診断に引っかかったヴィオは、同じく再検査となった上司ヴェルデと共に医療機関の集う月へと向かう。
行きの宇宙船で乗り合わせたのはヴィオの学生時代の天敵シアン、彼の友人マルフィとその兄アンバーであった。何やら訳アリな一行とのフライトに船内はちょっと気まずい空気。
そんな中、一行を乗せた宇宙船が突如エラーコードを吐き出した。原因は性別未分化の搭乗者がいること。
彼らの住むコロニー・クォーツでは、成人になるまでに男女どちらかの性別を選択し分化する。未分化の場合、安全のため異星へのフライトには保護者の同意と別途申請が必要なのだが、全員が「自分は男だ」と言い張ってきかない。
さっさと月へ辿り着きたい一行が犯人探しで揉める中、他コロニーからの宇宙船強盗が侵入する。何とか撃退に成功するものの、船は損傷により急遽地球へと不時着。
果たして一行は崩壊寸前の星・地球から無事コロニーに帰れるのか。
前時代的な思想が蔓延り、野蛮人が多く住みつく地球で、か弱い性別未分化のメンバーを守り切れるのか。
そもそも未分化なのは誰なのか。
親の策略で男の婚約者が出来たばかりのヴィオ。
分化不調で再検査予定だったヴェルデ。
飄々とした態度で疑惑を躱す謎多きシアン。
母親に不本意な分化を強いられたと泣くアンバー。
どう見ても可愛いお嬢ちゃんのマルフィ。
全員怪しい。でも、誰かに直接「お前未分化だよね」とは聞けない。
だって、それってめっちゃ失礼だから──!
たった半日の予定だったフライトからの大遭難。コロニーとの連絡もつかない。半休申請しかしてなかったのに!
絶体絶命の状況の中、一行の目の前に広がる海、山、ひなびた温泉街。
──これ、歴史の教科書で見たことある!
退路を絶たれたヴィオたち一行は、一刻も早く故郷へと帰るため、偶然降り立った熱海という街でバイトに情報収集に奔走する。
【コロニー・クォーツ】
ヴィオたちの故郷。ここでは人間は性別未分化で生まれ、成人までに男女どちらかを選択し、思春期頃からα石・Ω石を5回程度摂取して完全分化する。成人後にも性別未分化でいることは可能だが、特殊な身分証明書を取得しなければならないこと、生活に様々な制限が生じることからほとんどの人間はどちらかの性別を選択する。また、性別分化の速度や程度には個人差があり、成人後も中性的な容姿の者が多く、男女の身長差・体格差も比較的少ない。そのため性別の話題は非常にセンシティブであり、未分化であることをからかったり差別することは中でもマナーの悪い行為とされている。また、クォーツ人はそれぞれ特殊能力を持っている。コロニー内でも文化レベルは高く、比較的治安の良い居住区。分化後は、性別に関わらず2年の兵役がある。
【月(性別問題解決センター(仮称))】
全コロニーの医療機関の要。クォーツ人は傷病治療の他にも、性別分化に問題が生じた際に訪れる。また、近年では性別分化後のクォーツ人を未分化に戻す治療も可能になり、それを目的に訪れる人も増加している。
【地球】
環境破壊や度重なる戦争・紛争により居住可能なエリアが極端に減少したため、人口の大半がコロニーに移住した。現在は移住計画の際に取り残された犯罪者、被差別者、障害者、貧困層などの子孫が在住しており、コロニーの人間たちからは治安が悪く危険な星というイメージを持たれている。実際コロニーに比べ文化レベルは低く、前時代的な技術や思想が残っているが、近年では地球でしか観られない景色や文化などが関心を集めており、一部地域が観光地化している。
【コロニー・ダイヤ】
コロニー・クォーツから離れた地域に存在する居住区。厳正な審査を通過した人間のみが居住権を得られる高級居住区というイメージが持たれているが、他コロニーとの外交がほとんどなく、実態は謎に包まれている。
【登場人物】※画像と設定違う箇所あり
①ヴィオ(地球名:ゆかり)

24歳。上流階級の家庭で権威的な父親、献身的な母親、兄二人と共に育つ。性自認は男性。負けず嫌いで、自分は兄弟よりも優れていると思っている。政略結婚を目論む両親に男の婚約者と引き合わせられ「女になれ」と言われてから実家への不信感が募っており、健康診断で性別分化に問題ありと判断されたのも両親の策略なのではないかと疑っている。努力家で粘り強い性格だが、せっかちで空回りも多い。特殊能力は過集中。飲み込みは遅いながら忍耐強く物事に取り組む事ができ、構造を理解したものについてはゼロから自力で作り上げることもできる。本人はそれを能力だと思っておらず、力を持たないことをコンプレックスに感じることもしばしば。また、親の財力により兵役免除されたことを後ろめたく思っている。地球での通名は「ゆかり」。ミステリアスでカッコいいと思って付けたのに、女っぽいとイジられ不服。
②ヴェルデ(地球名:ヒスイ)

30歳。ヴィオの上司。母親と姉二人、女性に転化した元父兼現二人目の母がおり、女の権力が強い完全なる女系家族の出身。そのためうっすらと女性への嫌悪感があり、同性に惹かれやすい。性別分化が不安定で現在もα石を摂取しており、兵役免除されている。冷静に状況を分析し判断できるリーダー気質だが、ずぼらで面倒くさがりのため自ら前に出ようとはしない。時折矛盾するシアンの言動が気になっており、口調は穏やかながら密かに探りを入れてはギスギスしている。特殊能力は対象物の時間停止。効果は30秒が限界。地球での通名は「ヒスイ」。観光地によくある謎の天然石屋さんにあった、自分の髪と似た色の石から付けた。
③アンバー(地球名:コハク)

27歳。マルフィの兄。精神不安定な母親に育てられ、自分の意志を伝えられないまま半ば強制的に男性に分化させられた。母親の自死後、自分でもう一度性別を選択したいと思うようになり、シアンの手助けで未分化に戻るため月へと向かっていた。幼い頃からマルフィの面倒を見ており、自分は実母よりもっと良い母親になれると思っているが、内気で自己肯定感が低く不安定で、実際はマルフィに依存している節がある。儚げな容姿とは裏腹に筋力や身体能力が高く、小柄な人間が多いクォーツ人の中ではかなり体格が良い。兵役時代所属していた隊では数々の功績を挙げちょっとした伝説になっているが、本人はそのことを隠したがっている。特殊能力はサイコキネシス。感情が昂ったりパニックになると近くのクォーツ人と共鳴し、耳鳴りやめまいを起こさせる。また、その状態で感情的な言葉を使うと、近くの人間たちを無意識のうちに従わせてしまう。地球での通名は「琥珀」。
④シアン(地球名:碧)

24歳。貧しくも愛情深い両親の元、不自由なく育ったと語るが、実は…?明るく、誰にでも分け隔てなく接する好青年だが、飄々として掴みどころがない。時折かなりドライな一面を見せ周囲を驚かせる事がある。特殊能力は不明だが、一を聞いて十を知る要領の良さや何でもこなす器用さから、そもそもの能力値の高さが特殊能力であると周囲からは思われている。ヴィオとは高校と大学で一緒であったが、再会時には全く覚えておらず後から気が付いた。マルフィとは兵役時代に同じ隊にいた。異星や他コロニーとの謎のパイプを持っており、月での治療を望むアンバーの手助けをするため船に乗った。ヴィオのことを度々未分化扱いしては逆鱗に触れている。地球での通名は「碧」。特に深い理由はなく、自分の髪が青いのでそれっぽい名前を適当に付けた。
⑤マルフィ(地球名:コウ)

22歳。アンバーの弟。精神不安定な母の代わりに自分を育ててくれた兄を慕っている。憂いを帯びた美少女のような見た目をしているが、とても気が強く口が悪い。素直で直情的で泣き虫。強さに憧れているため決して認めないが、体力も筋力も人並み以下。未分化であることを疑われるたびに男である証明をしてやると息を巻き、周囲から止められている。母と同様に精神不安定な兄を心配しており、甲斐甲斐しく世話を焼いている。未分化に戻りたいという兄を手助けしながらも、いつか自死した母の二の舞になるのではないかと密かに恐れている。特殊能力はヒール。キズパワーパッド程度の傷の治癒、ロキソニン程度の鎮痛、ジアゼパム程度の精神安定を相手に施すことができる。地球での通名は「コウ」。半分崩れた商業施設の看板の文字から取った。