90年代から放送されているオムニバスドラマ『世にも奇妙な物語』は数々の傑作を残したことで知られていますが、その1つにこんなエピソードがあります。
雪山で遭難した5人が生存危ぶまれる中、惨劇にみまわれる…
あらすじですでに、絶対おもしろい!
しかもこの作品が傑作とされている所以は、本編を観てもほとんどの謎が解消されず、不可解なままラストを迎えるらしいということ。
めちゃくちゃ気になるのに、配信もレンタルも視聴困難な状況。
そこで、映画解説YouTuber「守鍬刈雄(すぐわかるお)」氏による、あらすじ漫画を視聴しました。
▼『雪山』のあらすじ
旅客機が雪山に不時着、生き残った5人が雪の中を彷徨う。主人公・美佐の親友・麻里は怪我をして歩けない。緊急措置として、雪洞をつくって麻里をそこに留める。そのうち小屋が見つかったため、助けにいき掘り起こそうとするも、誤ってスコップが刺さり麻理は死んでしまう。その後小屋に避難した4人は、凍死を防ぐため交代で睡眠をとりお互いを起こし合うことにするが、小屋の中で不可解なできごとが起こり...。
動画ではラストまで楽しめるので、気になる人はぜひ見てみてください。
▼『雪山』の考察
『雪山』は、『世にも奇妙な物語』史上最難関と言われているエピソードで、ネット上でも長年論争が起きているそう。
とくに、霊や呪いによる「ホラー」である説と人為的な「ミステリー」とする説で意見が分かれるとのこと。上記の守鍬氏の動画では、前者として持論を展開していました。
しかし個人的には、もっとしっくりくる解釈があるはず...とモヤモヤ。
そこでコメント欄を漁ったところ、こんな投稿を見つけました。
▼考察チャンネル『ちかこチュベローズ』
SFや神話を考察するYouTubeチャンネルとのこと。
宇宙系ピアニストてなに?^^;
正直、初見はプロフィールや動画の雰囲気から、怪しいアカウントなのかなと身構えてしまったのですが…
科学的根拠に基づいて推論する、バリバリ硬派なチャンネルでした!いやブランディングで損してるて!😂(でもそのギャップがおもろすぎる)
▼ちかこ氏による『雪山』考察(ネタバレ含みます)
この解説動画のすごさは、「幽霊などの怪奇現象的な解釈は一切排除し、劇中における全ての謎を科学的に矛盾なく説明」していることです。
冒頭から、他のYouTuberもあげていた「麻里は飛行機事故で死んでいて、4人は死体を運んでいた」説の矛盾を指摘。
また、「遭難時において雪中行軍は最も危険なのに動きまわっている。つまりこの中にサバイバルに詳しい者がいない」など、一つひとつの事実から、登場人物の行動原理を紐解いていきます。
他にも
・麻里の不自然な薄着の理由
・麻里のビバーク後には隠されたシーンがあった
・山小屋での不可解なできごとは、ほぼミスリード
・山内と真辺は他殺ではない
・美佐のネイルチップと血痕の真実
・カメラに映った首なし女の正体
・斧はどこから出てきたのか(動画コメント欄)
などなど。
非常に痛快で、みごとな考察でした。もっと世間に見つかってほしいので、詳細はぜひ動画を観てみてください。
▼『雪山』という作品の本当のすごさ
この完璧な考察によって気付かされたのは、「作り手がいかに一貫性にこだわり、隙のない画づくりをしていたか」ということです。
例をあげます。結城が麻理をスコップで刺し殺してしまうシーンで「首を刺しやがった」というセリフが出てきます。
これは、その後「首なし女の幽霊」を見た視聴者に「そうか、ちぎれた首を探すために幽霊が彷徨っているんだ」と思わせるためのミスリードです。(ちかこ考察より)
ここでシーンをよく見ると、首ではない箇所を刺しています。わざわざセリフと異なる状況にしたのは、なぜなのか。
「幽霊が首を探している」説を明確に否定するためではないでしょうか。作り手次第ではそこを曖昧にして、「さまざまな解釈ができるよね」「幽霊説もあり」という見せ方でもいいと思います。でも、この作品はそこを否定する根拠を置いておくことで、解を狭める意図があると思います。
また、視聴者が見ている映像と、登場人物から見えている情景に食い違いがある。というのはつまり、このあと出てくる彼らの見たもの・発言も信用できない、とルールを示すためだと思われます。
このように、ミスリードといっても単にトリックから注意をそらすためだけでなく、必ず、ひとつの解へ導くための別の細かい描写をいくつも用意しているのが本作ということになります。これは、まさにホラーレベルのものすごい執念ではないでしょうか。。
(ちなみにWiki情報ですが、監督・脚本としてシリーズ史上最多話数を演出した落合正幸氏、『懲役30日』の鈴木勝秀氏が担当。それは傑作になるわけだ...。)
▼『雪山』がほんとうに見せたかった、幽霊や人間以上の恐怖
麻理の幽霊が首を探して彷徨っている説。
美佐が狂って全員を殺した説。
『雪山』の真相はどちらでもありませんでした。
これら以上にもっと現実みを帯びた、「緊急時における無知な行動の連鎖による悲劇」こそが、この作品の恐怖の正体です。
2024年1月現在、年初に能登震災があったこともあり、フィクションとして片づけきれないものを感じました。