SUPER COMIC CITY31-day2-
FULL BLOOM SEASON GW2024 お品書きです。
スペース;東2ホール 【ミ 22b】
サークル名;ちいさな、世界
『ぼくで万至が盛り上がってくれるなら幸せです!』/ ¥0 / 万至 / A6コピー本
※万至大前提のモブおぢ視点本です^^
⛳️当日の状況や今後のお知らせはこちらかPawooより発信していきます◎
▷ puchiぱう〜 ( https://pawoo.net/@puchi_aaa )
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サンプル;
彼の名前は門部銀一。某商社に勤める勤続歴三十二年のある意味のベテランサラリーマンだ。ベテラン、といっても一部の社員からは〝万年係長〟と揶揄され、部長からは出勤を確認されるほど影は薄い。好きなものはホタルイカの煮付け、コンビニで買うワンカップ。それから毎週日曜日に放送される『世界お城発見』という番組。門部は何年もかけディア●スティーニで城を完成させるほど、大の城マニアだった。
――城は良い。余計な事を言わずただそこにいてくれる。
六連勤目かつ連日終電の疲労体をひきずりながら門部は思う。城こそ世界の宝だ、と誰に言うわけでもなく大きく頷く。
そんなイカと酒と城にしか興味がなかった彼にももう一つ。最近楽しみができた。それもアウトドア系の、楽しみ。
「……本当は誰にも教えたくないんだ」
聞いてもいないのに独り言を言う門部。背中を丸め幸の薄いオーラを身に纏いながら定時を二時間過ぎたところで会社を抜け出し、最寄りの駅へと降り立つ。
辿り着いた先はとある喫茶店。
若い者に人気らしいこの喫茶店は、コーヒーの味はもちろんナポリタンやサンドイッチなどの軽食も美味いことで有名。すっかり常連となった今はマスター……いや。店長、と言うのだろうか。店の主人とも顔見知りだ。
人生で一度は言ってみたかったあのセリフ「マスター。いつもの」で店自慢のブレンドコーヒーが出てくるのだから薄暗い彼が通いたくなるのも分かる。
それからもう一つ。この店に通う理由がある。
「お待たせ致しました」
程よい低音とやや掠れたセクシーな声がまるで天から降り周囲を癒す。それから長く男らしい指先がブレンドコーヒーを運んでくれ、ふんわりと。コーヒーの芳ばしい香りの奥にはレモンなのかオレンジなのかミントなのか。とにかくお上品な、それでいて鬱陶しくない香水か洗濯洗剤の香りが宙を舞う。いずれにしても良い匂いだ。
「ごゆっくりどうぞ」
――ありがとう、摂津くん。
心の中で会話したつもりになっている門部を癒してくれる店員さんの名前は、摂津万里。天鵞絨美術大学に通う一年生。MANKAIカンパニーという劇団で役者をしているらしい。全て聞き耳を立てて得た情報だった。
門部は、この喫茶店でアルバイトをする摂津万里のファンでもある。
同じ劇団に所属する何歳か上の先輩(つづる、というらしい)の紹介で時折見かけるのだが、門部が喫茶店に寄ると必ず彼も出勤しているのでもしかして……と門部は勘違いしている。
――摂津くんは私のことを見てくれている。コーヒーだってこんなに特別だ。
受け取ったコーヒーはこの店の中でも一番美味しい。数名しかいない客たちにドヤ顔してみせた。
特に用事もないのに通勤用鞄からパソコンを取り出してはしごでき風を装いアピールする。彼は九割、アルバイター目当てで喫茶店を訪れているというのに、いつだって下心はないと隠すつもりらしい。やることもない彼の指はキーボードの上をぎこちなく彷徨う。それから今日の彼は一味違う、と鞄からある物を取り出し準備する。
「よ、よし……っ!」
震える手で取り出したのは、ラッピングされたハンドクリーム。会社の女の子たちが使用しているのを横目で見て、リサーチしたものだ。
なぜプレゼントを用意したのか。それは至極簡単である。
「す、す、すすすみましぇんっ!」
「はい、お伺いします」
なにやら汗が一気に吹き出す。
脚が長過ぎて摂津万里が着用しているエプロンしか目に入らない。モデルのように颯爽とスタッフエリアからこちらにやってきた彼は当然、注文と思っているだろう。
――サ、サプライズだ……! ぼくと摂津くんは、ここから始まるんだ!
門部の息は自然と上がる。
美しくラッピングされた包装紙に手汗が滲むようだ。
「お待たせ致しま、」
「こっ、これェ!! お誕生日おめでとううう!」
「へ?」
「プレゼントゥ……!!」
勢いのまま八頭身アルバイター摂津万里にハンドクリームを差し出す。どもり過ぎて少し発音が良くなってしまったのはご愛嬌だろう。
店内にいた数名がこちらを見る。
へえ、あのイケメン店員さん、お誕生日なんだ。イケメンとおじさん知り合い? てかあのおじさん汗すごくね? イケメン、脚長すぎ。エプロン姿もかっこいい。……などなど。遊んでいそうに見えて好青年に生まれ変わった摂津万里を見てギャラリーが改めてほう、と息を吐く。あんなにかっこよくてスタイルも抜群なのに、古めかしい地域密着型喫茶店で働いているなんて。そのギャップに全ての客がときめいた頃、門部から突然手汗付きプレゼントを渡された摂津万里は「あー……」と眉尻を下げ困った。
俺、誕生日は九月なんだけど……、と。
そうなのだ。今は四月の下旬。摂津万里の誕生日は半年後の九月。それなのになぜか見知らぬおじ様からプレゼントを差し出されている。これは、一体……。
「あー、っと……。あざす」
「!!」
悩むこと一秒。どこにでもファンはいて、それを蔑ろにすることはよくない。カンパニーで成長してきた摂津万里は好意を受け取ることに決めた。
しかし物資による供給は、一つ許すとこの先良くないことは分かる。それは外面が完璧な誰かさんから教わったことだ。だからこそ、摂津万里はこう返したのだ。
「良かったら次は物じゃなくて、公演観に来てくださいよ。それが一番嬉しいんで」
まるで桜の蕾が太陽を浴び、やっと咲き誇ることを知ったような笑みで門部に微笑む。
――わ、わあ! 摂津くんからお返しに公演デートに誘われちゃった……!!
門部は喜んだ。それはもう、とても。
喜びと初めて得る快感に返事も忘れ、伝票を引っ掴んではすぐに喫茶店を飛び出すのであった。
それから門部は出来る限り喫茶店に通った。公演にも観に行った。毎週日曜日に城を巡るテレビに釘付けだった門部はもうどこにもいない。
公演、彼の中ではイコールデートのためにデパートで服を買い揃え毎日風呂に入って摂津万里との出会いに備える。大丈夫。万里くんはぼくに好意がある。ハンドクリームも喜んで使ってくれている。どこからきた自信は門部を強くしたらしい。お花畑のような思想は突然、恐怖へと変わるとも知らずに。
つづく