黄鶯睍睆(うぐいすなく)

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雪が降ることの少ないこの地域は、今期も雪は降ることなく、春を迎えようと勤しんでいる。

空を見上げて白い息を吐くことも、暫くはできなくなる。見上げた天色は雲ひとつなく、それが私を何故か空っぽな気分にさせるのだ。

高校生の時に解いた古典の文の一つに、鶯を逃さないよう命じられた男が意図に反して鶯を傷つけてしまう話があった。

不器用は人を傷つける。もう随分と臆病になった。どこにいても周囲の空気を読むこと、笑っていること黙っていること、私だけじゃないと言い聞かせること、日常に刷り込まれた不器用への蔵匿が、不用意に私を傷つける。

傷つけられてもいいと思える貴方に出逢ってしまった。だけど、傷つけたいとは思わない。貴方に会ってしまえば、私の臆病なんて一瞬で消え去るだろう、貴方へ手を伸ばすことを私はきっと顧みないだろう。それが、貴方の本意でなくとも。

空想上での静的な葛藤に私はまた傷つく。弱いのだ。人間なんてそんなものだと唄った貴方を、私はまた愛しいと思う。