ナンセンスの向こうを見て先へ進む

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どの世代もユーモアとシニシズムを武器に生き残っていく、要はそういうことだと思うの。シニシズムっていうより、私はむしろそれをサヴァイヴァルと言いたいのね(ビョーク)

●(笑)なるほど、ちょっと戻りますけど、ベックがさっき各時代の波の大きさという話をしてたでしょう。ある現代哲学者は、シニシズムというものはある意味60年代の残した負債であると言っています。それはどういうことかというと、あのとき、革命の当事者であった人々は挫折を味わってしまった。で、もうこれ以上、幻滅したくない、理想を掲げて、それが破綻する絶望を見たくない、それで、そういうシニシズムが残った、と。

ベック「うんうん」

●現代において唯一世界的に支配的なイデオロギーがあるとすればそれはキャピタリズムでもコミュニズムでもなく、シニシズムそのものであるとさえ言えると思いますが、どうなんでしょう、もはや僕らには理想を掲げて啓蒙を行うという行為はアナクロで無駄なことなんでしょうか。

ベック「それ、それこそさ、さっき話してた野蛮と洗練っていう話だよ。特にアメリカじゃどっちかでしかあり得ないんだ、アンビヴァレントなのは違法なんだよ、何に関してもね。だから100%理想に走ったり100%シニカルだったりっていうのはどっちも自己耽溺であって、容易なんだ。どっちかだけっていうのは簡単なんだ。両方を併せて一つの空間の中に存在させる、それが一」

ビョーク「チャレンジよね」

ベック「難しい部分なんだよ」

ビョーク「それとね、すごく陳腐だけど物質主義とか資本主義とかいった問題にも関わってくると思うの。人間の感情とか、他人への共感とか、そういうものって常に金銭搾取されてるでしょ。それは世代ごとにーほら、いま50年代のコマーシャルなんか見れば誰でもそのからくりは見え見えじゃない?で、その世代の賢さに太刀打ちできるだけの、よりシニカルなコマーシャルが作られていく。そしてそれをまた見透かしてしまう世代が現れてくると、いまやってるTVコマーシャルを見て、私なんか『うわぁすごい!』って簡単に騙されちゃうんだけど、うちの息子なんかは見事にからくりを見透かしちゃうのよね。だからどの世代もユーモアとシニシズムを武器に生き残っていく、要はそういうことだと思うの。あなたはシニシズムっていう単語を使うけど、私はむしろサヴァイヴァルと言いたいのね。騙されないこと。 騙されたら一歩後退して、過去の間違いを繰り返すことになってしまうから。だってパンクだって、一時期のヒッピーのやってたことだって、それは当時なりにシニカルなことだったわけよ。でも、いまの時代に持ってきたらそうじゃないでしょ。 私たち人間の本性は信頼しなきゃいけないと思うわ。ちゃんと次の世代が現れるんだってことは、 ビーヴァス&ザ・バッドヘッドとか何とかあの手の番組にもちゃんと何かを感じる世代がね」

ベック「ふむふむ」

ビョーク「要はナンセンスの向こうを見て先へ進むってことなのよ」

●あなたの使うシニカルって言葉はむしろ、現実的であるってことなのかな。

ビョーク「ていうか人間的であるってことよ」

ベック「目を見開いてるってことだね」

ビョーク「そう、私のことごまかせないわよ、っていうね」

rockin'on 1998.10月号 Beck × Björk (対談)より抜粋

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