歴史が最初に登場したとき、誰も耳など貸そうともしなかったから歴史は繰り返そうとするのである―発言者不詳
(ジェニファー・ウェルシュ『歴史の逆襲』朝日新聞出版(2016)、p.3)
歴史の終わりは時によって、憂いに満ちた空気をもたらす。“歴史が終焉したのちの時代”にあって、歴史を特徴づけてきた壮大な闘争、過去の世代に非常なる勇気と理想主義を育んできた大いなる闘争は、官僚たちの小手先の修正と、これまで以上に洗練された消費主義に取って代わられるとフクヤマは予測していた。
政治に関する大いなる問題がひとたび解決されたあかつきにはーと記すのはアメリカの政治学者ウォルター・ラッセル・ミードである。そのとき人類は、十九世紀ドイツの哲学者フリードリヒ・ニーチェが描いた虚無的な「最後の人間」にきわめてよく似てくると言う。「今度いくモールへの買い物には胸弾ませても、それにまさる志とはまったく縁がない消費者」(いまならネットで買い物をする大勢の人たち)の群れである。
(ジェニファー・ウェルシュ『歴史の逆襲』朝日新聞出版(2016)、p.41-42)
歴史はふたたび戻ってきたのだ。しかも、復讐で煮えたぎりながら帰ってきたのである。
(ジェニファー・ウェルシュ『歴史の逆襲』朝日新聞出版(2016)、p.50)
――1989年の論文「歴史の終わり?」で民主主義と資本主義の勝利を宣言しました。いま「新冷戦」という言葉も聞かれます。
「東西冷戦には地政学的な闘争とイデオロギー対立の両面があった。もはやイデオロギー対立は存在しない。大事なのは目標としての社会制度の最終形態が何かということだ。その歴史の終着点が民主主義だという事実は揺るがない。旧ソ連は共産主義を世界に広めようとしたが、いまのロシアはエネルギー輸出に頼る質の低い国家制度にすぎず、誰もまねしないはずだ」
――勝利したはずの米国、そして民主主義と資本主義はやや色あせました。
「大きな要因はイラクなどでの戦争と金融危機だ。戦争は米国の威信と力に影を落とした。民主主義を後押しする米国に世界が不信の目を向けるようになった。巨額の費用をかけて不必要な戦争に深入りした結果、米国民も世界に介入する意欲を失ってしまった」
――中東での戦争を支持したネオコン(新保守主義派)の原点は、世界に民主主義を広めよと説いたあなたの主張だといわれます。
「私は民主主義を広めるために軍事力の役割を重視したことはない。私の考えがゆがめて利用された。民主主義は模範を通じて広まった。米国の制度がうまく機能し、他国が見習いたいと思うようにすることが大事だ。その信頼を米国は戦争で失ったのだ」
――格差問題ではフランスの経済学者トマ・ピケティ氏の著書「21世紀の資本」が話題になっています。
「格差の原因は同氏がいう資本そのものの特性というより、技術革新やグローバル化だと思う。ただ、格差問題への注目が世界中で高まっている表れではある。オバマ大統領が5、6年前に再配分の重要性を説いたときは社会主義者と批判されたが、今日では格差問題の存在を否定できない」
――保守派の論客なのに格差問題を正面から語るとは珍しいですね。
「固定観念で世の中をみてあるものをないというのはまさにイデオロギーだ」
――解決できますか。
「伝統的な対策は再分配や安全網の整備だが、人々のやる気をそぐ弊害はある。教育の効果も限られる」
「大事だと考えているのは効率的で責任ある統治の仕組みがあるかどうかだ。社会的、経済的な現象である格差などの現実と向かい合う公正な政治システムが必要だ。だが、それは政府が所得格差をなくすことを必ずしも意味しない」
(https://www.nikkei.com/article/DGXZZO81529260T00C15A1000000/)
ジジェクはこういっています。「私のフクヤマに対する批判は、彼がヘーゲル的でありすぎるということではなく、まだ十分にヘーゲル的ではないということです」 (浅田彰『「歴史の終わり」と世紀末の世界』小学館(1994)、p40)
「意味、構造、そして映像ディスプレイの諸要素が本質的に不安定であるという点で、電子テクストは従来のテクストとは一線を画している。」
J・D・ボルダー
「究極のロゴスなど存在しない。そこにあるのは新たな視点、新たな認識、新たな解釈だ。にもかかわらず、文学はむしろ連続性を保持するためのシステムであり、われわれはその文学の電子の端末にいるにすぎない。」
テッド・ネルソン
(https://1000ya.isis.ne.jp/1124.html)
(https://plaza.rakuten.co.jp/cafefandango/diary/201106050000/?scid=wi_blg_amp_diary_next)
「一方には映画のセットがあって昔のカウボーイタウンのような虚構の情景が広がる。そこから歩いて数分の距離には未来志向のロケット実験施設がある。普通なら一緒にあり得ないようなものが同居する奇妙な風景を、当たり前のものと受け止めて育った。自分の小説でもそういうことがごく自然に起こるのです」
(https://www.sankei.com/life/news/191107/lif1911070009-n1.html)
S.E 本質的には、ぼくの書いているのは因習的とはいえなくても至って伝統的な小説なんだよ。というのも、扱っている葛藤や主題が、いわゆるポストモダン作家とはおよびもつかないくらい伝統的だから。(ラリイ・マキャフリイ『アヴァン・ポップ』P245)
S.E (略)『黒い時計の旅』のような小説の場合、必ずしも歴史改変を中心に据えようとは思わなかった。むしろ、いったい歴史を変えたのは何だったのかということ、それこそは、ぼくを魅了してやまない問題だったんだよ。(同 P246)
スティーヴ・エリクソンの小説を評する言葉は無数にある。しかし『黒い時計の旅』を読むとき、それらの評言に惑わされて、このテクストの核となる部分を見過ごしてはならない。
これは何より、古典的な「愛をめぐる物語」なのである。
愛は円環する。
『黒い時計の旅』において、愛は、常に暴力的な形をとって表れる。
バニングが自分の母を知ったとき、ペンシルヴェニアの農場には圧倒的な暴力の嵐が吹き荒れる。ブレーンがデーニアを見た/愛した瞬間、無数の男たちが死に、バニングがデーニアを見た/愛した瞬間、歴史の濁流は二つに分裂する。デーニアの両親の性交は、時空の彼方から野牛の群れを呼び、一つの共同体にカタストロフィをもたらすことになる。※1
※1 この小説を執筆当時、エリクソンの結婚生活は破綻寸前だったという。『黒い時計の旅』に満ち満ちた愛の暴力性の起源を、そこにもとめることは短絡過ぎるだろうか。
そしてどこかで、決して与えられることのなかった許しの沈黙のさなかに、平行して流れる二十世紀のふたつの川、彼女が私を見た唯一もうひとつのあの瞬間に分岐したふたつの川が、いままたひとつに合流する。(P430)
愛は、エリクソンの処女作である『彷徨う日々』から『ルビコン・ビーチ』、『リープ・イヤー』と、主要な作品を貫くモチーフである。それは『黒い時計の旅』に続く『Xのアーチ』でも繰り返される。
描かれるのは、アメリカの建国の父トマス・ジェファソンと、その黒人奴隷サリー・へミングスとの間の禁断の愛だ。エリクソンは、アメリカ史の起源にすら、一つの愛を幻視(©️巽孝之)してしまう。
エリクソンの、愛に対するオブセッションの意味するところは何か。
エリクソンは『黒い時計の旅』の中でバニング・ジェーンライトに次のように語らせる。
(略)夜明け前の静けさの中で、その炎に向けてあたり一帯が叫び声を上げているのが聞こえる。叫びと笑い、神を讃える喝采。神なんて全然関係ないのに。(P77)
(略)だが見るがいい、神のパンツには人間の糞がついているのだ。(P360)
自身の書くポルノグラフィーの中で、バニングは神のように君臨する。
神の権威が失墜した二十世紀。エリクソンのテクストにおいて、その死んだ神に代わるのが愛である。愛は超越的な場所で、エリクソンが書く世界の存在を支えている。
もはや歴史を動かし、人を殺戮するのは、神の役目ではない。
それは愛の役目となる。
一方の端から世紀を出た彼は、こうしてもう一方の端からふたたび世紀に入っていった。(P442)
(https://natsugo.hatenablog.com/entry/01500801/p1)
ミレニアムに向って、アポカリプスの時代を引き摺って、20世紀のカオスは21世紀の今も侵攻・進行する。父と娘のような二人、母と娘、彼らは行き違い出会い、離反し交錯し合い、時間と場所は転送され、記憶となりタイムカプセルとなり、掘り起こされ埋められ、大洪水に押し流される。夢を、子を失い、贖罪の旅を続け、彼らの足跡は消える。様々な事件と音楽が鳴り響く混沌とした世紀を回顧する作家の勢いに幻惑されて、終末が来るのを恐れた。これももうひとつの米国・西欧の姿であり、我々の背後、我々の全体を包み広がった世界の断面だ。
https://bookmeter.com/books/434803()
アメリカでは、一部の州でいわゆる労働権法が制定されている。組合加入を雇用条件にすることを禁じる法律で、言ってみれば団結否認法である。
労働権法の基本理念は公正雇用慣行法と同じであり、どちらも雇用契約の自由に干渉する。公正雇用價行法では特定の人種や宗教を雇用条件にすることを禁じ、労働権法では労働組合への加入を条件にすることを禁じる。このように根は同じであるにもかかわらず、両者に対する見方はほぼ完全に対立している。公正雇用價行法に賛成の人は労働権法に反対し、労働権法に賛成の人は公正雇用慣行法に反対なのだ。しかし自由主義者の私は、どちらにも反対する。組合不加入玉雇用条件とする、いわゆるイェロードック契約にも反対である。
(ミルトン・フリードマン『資本主義と自由』(1962)、
http://sloughad.la.coocan.jp/novel/master/friedman/fride07.htm#SEC2)
新右派は、自分たちの主張を広めたり資金を集める手段として、マスコミの力と共に現代的なダイレクト・メールの手法を使い、また、経済学者のミルトン・フリードマン、ジャーナリストのウィリアム・F・バックリーおよびジョージ・ウィルといった保守主義者、そしてヘリテージ財団等の研究機関の思想を利用しながら、1980年代のさまざまな問題を語る上で重要な役割を果たした。
(https://americancenterjapan.com/aboutusa/translations/3493/)
70-80年代には、組合の組織活動に対する経営者側の合法・違法な対抗戦術が活発化した。組合員に対する差別、配転、解雇の事例が増加し、全国労働関係委員会に対する提訴が倍増した。会社は多くの事件で敗訴したが、これをコストとして受け入れ、組合組織化阻止戦術を続行した。反組合的妨害戦術を助言する労使関係コンサルタントも横行した。
組合は対抗的に、組織化を容易にする労働法改正を目指した。しかし、60年代以降、大企業の政治的影響力が拡大していたので、組合の努力はことごとく失敗した。1981年にレーガン大統領が就任すると逆襲がはじまった。航空管制官ストライキに対してとられた政府の強硬策を機に、80年代と90年代には組合の譲歩が目立つようになり、ストライキは激減した。
(『分裂した労働者の世界―労働運動の後退と中産階級の没落』、
最上位5%に属する高所得層アメリカ人の消費は、いまや全体の37%の割合を占める、というのがムーディーズ・アナリティックスによる最近の調査結果だ。驚くには当たらない。アメリカ社会はますます不平等を広げたのだ。
アメリカの不平等に向けたこの大きなうねりが逆転するまでは、経済がほんとうに立ち直ることはない。たとえばなにか奇跡が起こって、ベン・バーナンキ議長のFRB(連邦準備制度理事会)が金利をほぼゼロに保ったままで、オバマ大統領の第二次刺激策が(議会で)支持されることになったとしても、中流階級が消費できる態勢になければ、いずれもうまくはいかない。
この100年間で、国の総所得中からのトップ所得者たちの取り分が最大になったのは1928年と2007年であり、この二つの年はいずれも史上有数の大規模景気下降の直前に当たっていた。これは単なる偶然の一致などではけっしてない。
(ロバート・ライシュ『没落した中流階級の再生なしにアメリカ経済は復活しない』(2011/9/20)、
https://gendai.ismedia.jp/articles/-/19272)
ブルームバーグのベン・スティバーマン(Ben Steverman)氏は、最近の記事の中で「アメリカ人の下層半分を合計すると、その純資産はマイナスだ」と書いた。(略)
同レポートは、アメリカの納税者のトップ1%の所得が国民所得に占める割合は、1980年に11%だったのが、今では20%を超えていると指摘。
そして、下層半分のアメリカ人の所得が国民所得に占める割合は、1980年は20%だったが、今では12%に減っている。
言い換えれば、アメリカでは富裕層はますます裕福になり、中間層や貧困層はより貧しくなっているということだ。
(https://www.businessinsider.jp/post-191278)
公立大学の無償化や国民皆保険。
経済的な不遇を味わう若者に寄り添う政策を訴え続けてきたバーニー・サンダース氏は、民主党の予備選挙で撤退したあとも、なお若者の間で根強い人気がある。
政権を奪われたあとの民主党で脚光を浴びてきたのは、こうした左派の議員たちだ。ほかにも、有力紙のニューヨーク・タイムズが予備選挙の前に支持を表明したウォーレン氏や、サンダース氏同様“民主社会主義者”を自認する若手ホープのオカシオコルテス氏ら。
バイデン氏は選挙戦で、こうした左派勢力の意見を束ねる形で、最低賃金の引き上げや富裕層への増税、さらには環境規制の強化といった公約を掲げている。
ある調査では、18歳から34歳の若い世代が、社会主義を「好ましい」と答えた割合が半分を超えた(ギャラップ2019年調査 社会主義「好ましい52%」「好ましくない47%」)。
(『連載・経済とアメリカ大統領選挙』第6回・“社会主義”に象徴される世代の分断、2020/10/23、
https://www3.nhk.or.jp/news/special/presidential-election_2020/report/society/society_35.html)