黒い服の話。

purpurfarbe
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その昔かなり精神を病んでいたときがある。

今ほどメンタルクリニックが一般的ではなかった時代。行こうかなと友人に話したところ「やめなよ」と言われたのもいまだに覚えている。

その時の自分について以前別の友人が話してくれたのだが、黒い服しか着ていなかったらしい。会うたびにまた黒だなと思われていたそうなのだが、特に自分で意識的にそうしていた覚えもないのでひどく驚いた。

あの頃は毎朝目覚めるたびにどうやって死のうかなと考え、それを実行する情動もなく仕事へ向かい、行き帰りのどこかで何らかの事故に遭えば仕事に行かなくて良くなると思ってそれを待ち焦がれる日々だった。今でこそ「毒親」と名の付く親とも無理やり決別し、やりたいことも欲しいものもなくて、友人やSNSがなかったらとっくにこの世から消えていたと思う。

その時に学んだのは、人の苦労については相対的でなく絶対的なものとして捉えたほうが己の為になる、ということだった。あの人の方が大変だから自分は我慢しなければ、という考えが一番良くない。気持ちの許容量は胃袋のように人によって違うので比べたところで何の意味もない。

そんな精神状態でたぶん人生で一番楽しいであろう20代が灰燼に帰したのは、己の人生に於いてもっとも悔やんでも悔やみきれない事だ。今は、あの頃楽しめたであろうことをちょっとずつ取り戻している毎日なのかもしれない。