平々凡々な日を綴る能はないし、十中八、九が平凡だが、今日は特別な日なので日記っぽく書いてみる。
私には友人が少ない。逆に友人と言える人はイコール親友なんだけど。歳を重ねて、生活のステージが変化していくにつれて、そんな親友たちとも疎遠になりつつある。
今日再会した親友は、最後に会ってから数年経ってしまっていた。数年の間に彼女は、結婚、妊娠、出産、離婚を経験していた。
しかもその経緯は、年賀状で異変を感じて知るに至った。あらら、そんなの親友と呼んでいいのか?いやいや、私にとっては数少ない一人なので、意地だけで親友と呼び続けさせていただく。
LINEで少しやりとりをして、彼女に凄いことが起きていたことを想像した。大変だったね、がんばろうね、なんて…何を言ってもマヌケでしかないと思って、会いに行くことにした。
指定された日の仕事のスケジュールを止めて、有休を取って、特急券を買った。
今日。早起きして、出勤よりも早く家を出た。なんて寒い日だ。セーター2枚着てるし、ワイドパンツの下にはスパッツも履いている。私物の中で最もゴツいダウンコート。
思い出した……彼女と中欧旅行をしたとき、母から借りた一張羅のダウンコートが、羽織りのカーディガンのようにスースーしたんだった。でもスメタナホールのコンサート、ドレスコードを気にしてスカートにヒールで出向いた。マイナス20℃だった。チェスキークルムロフでお揃いのスカーフを買って、ホットワインを飲んだ。一緒に行ったNYは夏だったか。私達の旅行はいつだってタイトスケジュールで、走りまくっていた……
特急に揺られる。始発駅を出ると、一気に高層ビルは姿を消し、いくつも新しいのか古いのかよくわからないニュータウンも現れては消えた。目を覚まし、ブドウの木だ!と思ったら次第に辺りは果樹園だらけになった。尾根に雪をかぶった山々が近づいてきた。遠くに来たな、とウキウキしてきた。
待ち合わせの改札で、お互いがお互いを認めるのに少し時間がかかって、胸がチクっとしながら彼女の顔を見る。変わったのだ。お人形のように可憐な顔で、髪を綺麗に巻き、浮き足立つようにピョンピョンする彼女ではなかった。美人には違いないのだけど…。彼女がすぐに私に気づかなかったことから、私も変わったんだろうなと察した。
ランチの予約まで時間があるから困ったな、と言うので、ためしに調べてきたスペシャルティコーヒーのお店は行動圏内か聞いてみた。ちょうど近い!ラッキーそこ行こう!と外に出た。冷気に四方八方から刺された。何から話そう、という緊張感とともに。
お土産を渡し合ったときに私の荷物が丸見えになって、なんで本何冊も持ってくるのよ、しかもハードカバー!と驚かれる。何読んでるの?と言うので渋々見せた。自分の読書歴を明かすのは恥ずかしい。一冊の経済学の本を、それ私も読んだよと彼女が言った。お互いにとっては全然違うハタケなのに共通の本を読んでいた偶然にちょっと嬉しくなった。
彼女は、苦いコーヒーじゃないと飲めない、と言いながら砂糖をスプーン2杯入れていた。それ甘いじゃん!と即座にツッコめなかったのは、数年の疎遠のせいかな……これが本場のウィンナーコーヒーじゃ!とか言いながら、深夜にウィーンの劇場の横で飲んだコーヒーを思い出した。そういえば激甘だった……
歩きながら、これスロヴァキアで一緒に買ったピアスだよ〜、と彼女が言った。思い出を振り返って、今日身につけてきてくれた気持ちがすごく嬉しかった。
名所に連れて行ってもらってしばし歩いた。お互いの弱い部分をさらけ出せるようになっていた。ありがとうとごめんなさいを言えないのはダメだよね。辛いときに、頼りにする人から共感してもらえないのは辛さ倍増だよね。訴えても響かないとき、宇宙人と話してるみたいな虚しさ感じるよね。今日の要旨はこんな感じだ。大した話じゃないな。でも私は彼女とそれを共有できてよかった。
2人で写真撮ろう?…この歳で親友とツーショットアリか?と頭をかすめたけど誘ってみたら、そうだね、と応じてくれた。昔みたいにキャピキャピでポーズはとらず、棒立ちではにかむ2人がカメラに収まった。
お土産店をいくつかまわって、あっという間に別れの時間になった。東京に来てくれたら、またピョンピョン跳ね歩く彼女を見れるんじゃないかと思って、たまには出ておいでよと言う。うーんいつかね、と返ってきた。
3時間の帰路についた。帰りの特急は富士山を目指して進んでいく。車窓の右に左に大きな富士山が見え隠れした。
野次馬のように、話を聞きに押しかけて行ったのは良かったのだろうか、結局マヌケだったんじゃないか…別の親友に旅の報告をしたら、その彼女も誰かに話を聞いて欲しかったかもしれないよ?と励ましてくれた。そう、私も彼女の話を聞きたい一方、自分の話を聞いて欲しかったもの。
やれやれ。ニュータウンの駅前というのは胡散臭いな。もうすぐ高層ビルが見えてくる。水筒の中のインマクラーダを一口飲んだ。うん、優しい。大切な親友たちに幸あれ。