(お)迎えに来いよ、

さと
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キースと酒と電話にまつわる連作一文。

バーを追い出されて、アスファルトもゲロも冷たくて、 携帯の一番上にあった番号を、際限なく鳴らした。
このまま迎えに来てくれよ、
オレの肩を揺さぶったのは、全然お呼びじゃねえヤツだった。
なんでお前が来んだよ、と言ったら、さすがのアイツも変な顔をして、 まずった、と思ったような、思わなかったような……思いたくなんかねえから、ヤツの肩にもたれかかって、脳をアルコールで満たしてから目を閉じた。
制服を汚した詫びを入れようと電話を掛けたら、アイツはちゃきちゃき 働いているようで、無断欠勤しているオレのコールに出るわけがなかった。
また脳みそをウイスキー漬けにして、電話を鳴らしたら、 今日はブラッドの声が聞こえて、笑った。
アイツが電話に出るか出ないか、バーテンと賭ける度、いつもオレが負けた
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酒の誘い方が一瞬わからなくなって、「行きつけの店があって……」 とかいうナンパの文句みたいになっちまった。
席に座ったところで「いつものでいい?」と訊いてきたデキる店主が、 今日はピザもあるよ、と耳打ちしてきて、思わず苦笑いした。
ずっと寝言で聞き続けた名前を呼ぶ姿と減りの遅いグラスを見ていると、 思わず野暮なことを言いそうになってしまうから、 買い出しに行ってる間店番しといてねと笑いかけて、看板を裏返した。
酔い始めたキースが俺に電話を掛けたけどスマホが鳴らなくて、 発信履歴を覗き込んだら古い番号に掛けていたから、 070の方の俺に掛けてよ、ほら、とけしかけて、目の前で「もしもし?」と 出たらキースが変な顔をしていて、俺もおんなじ顔をしそうになったよ。
笑えるほど酒が回る。
迎えに来い、制服着替えてからな。
迎えに来い、制服着替えてからな。

あとがき

ツイートが元ネタの連作一文。ステで西とミラトリに足を取られた初心者の赤ちゃん解釈でお送りしています。

シチュエーションにノッてくれた方が小説を書かれていて、え、私も書いて比較したいな……と思い、でもまともな文章を書けず、一文をやりました。それでもなにかしら書けてすごく嬉しかったな。一文、自分の一番捻出しやすい粘度の言葉と相性がよくてね……。Twitterに載せたのと同じ内容ですが、試験的にしずイに載せてみました。蛇足が書きたすぎて。もしこんな辺境まで読みにきてくださった方がいたら、心からの感謝を。

 

以下蛇足の無限語り。マジで蛇足だけど語りをやめられねえ!

一文って書いてる感覚としては詩歌に近くて、背景をカットしている場合が多いから、見てくださった方が想像したものと私が想像していたものと違うこともあると思いますが、それも面白さだよなあ、と、かつて友人の一文物語を読ませてもらって感じた。二次創作なのでそんなにぶれなさそうだけどね。

  

「携帯電話」って、ティーンのときの感覚と今の感覚ぜんぜん違うよなあと思いながら書いた。僭越ながら、勝手に同年代の感覚で。アカデミー時代は携帯電話番号とメールアドレスを交換して連絡取ってたんだろうな、とか。その流れで機種変してもずっと電話帳には残ってるだろうな、とか。ディノが復帰した頃にはLINE的メッセージアプリがメインになっててパッと電話する機会なかったんじゃないかな、とか。ディノだけ今の携帯番号070なんだろうな(日本じゃないだろ)、とか。070への萌えが要らんレベルで強すぎた。「090から始まる番号ってオジさんらしいよ!」とか言っててくれ、ディノ……。

だからミラトリが携帯電話でつながって電話してそうなの、長い関係っぽくていいなあと思いました。ミラトリの「電話」というと、潰れたキースがブラッドを呼びつけてるエピソードが印象深くて。そのはじまりだったり、周辺の妄想を、断片的にですがしてみました。楽しかったな……。

キース、履歴から電話掛けてそうだな~~と思ってて。冒頭、最新の履歴がディノでディノに鳴らす→翌日ブラッドに電話掛けて詫びようとする→履歴の一番上がブラッドになる、という流れは意識してました。ロスゼロ当時はギリギリガラケーでもいいなと思って書いてるのがバレてるかもしれない。ガラケーだと履歴から通話しやすいからね。

 

表テーマがミラトリなら、裏テーマはバー店主とキース、と思って書いていた。バー店主のイメージは舞台版。あのキースへの心配を含むまなざしや、キースもそれを受け取っている感じがとても好きでした。きっと粋な人だよね。当初はたち悪く潰れて警察呼ばれたり出禁直前までいってたりするかもしれないな……という妄想。そこから年月を掛けて、常連のあの関係性になっていたらいいな、とか。

キース、ディノが戻って酒量が減ってからも、人と飲むお酒以外にお酒自体も楽しんでいるように見えるんですよね。その裏に、「おいしいお酒とその飲み方」を教えてくれた人がいたりしたらいいなあ、と思って。

キースもディノの話するの嫌な人じゃないから、店主もそれなりにディノに詳しかったと思うんだよね。ラブアンドピース星人、ピザ星人というのは絶対に知ってただろうと思う。ディノ復帰のニュースを見て、キースが珍しく席の空きを訊きに電話掛けてきたときはテンション上がっただろうな(ピザを用意しておくくらいには)。会って1日でふつーに打ち解けてそう。オレは出禁寸前だったが? とか隣で思っている。

ブラッドは、キースに嘘をついていること・その嘘も理由の一つにキースが途方もなく傷ついていること、に罪悪感を持っていたと思うんですが、あの「お迎え」は自傷行為のようなキースの飲酒への罪滅ぼしでもあったのかな、と。(今更の感慨すみません)

嘔吐介助を入れるか真剣に悩んだのですが視点の問題を解決できなかったため、制服をゲロまみれにさせていただきました。(最悪)

ブラッド視点がないのは、ブラッドは十分に行動で示してくれたなと思ったからです。語らない人、親友たちの瞳を通すに限る。

関係ないけど、律儀なブラッドは店に着いた時に「看板がclosedになっているのだが、店を出たのか?」と電話してくる。店主がやべ、てなる。じゃあオレらで売上出したるか! って奮発して飲む。三人で楽しい酒盛りをしてくれ。幸福な飲み会って、あんま飲んでなくても酔いが回って、それがまた嬉しいよね。

 

最後に。

これ言うのは野暮にもほどがあるけれど、「アイツがオレの"お迎え"に来る前に、お前が迎えに来い」です。言うなよ。言います。バーテンはできんね。

@quale
私のクオリア