Year N 意訳強め和訳

さと
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公開:2025/8/19
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わたしの心がとめどなくあふれていく音が聞こえるでしょうか?

墨壺をそばに、文鎮を置いて。頁の上を擦る音に変えていく。

留めきれずに飛び散ったインクが、月の荒野に散らばる光の瞬きのようで。

そうやっていつもあなたを抱きしめていること、どうか届きますように。

1年目、名前を教えてもらった。

10年目、いつも一緒にいた。

100年目、手を離した。

1000年目、あなたを探していた。

そうしてわたしたちは別の旅路へ。

ハッピーエンドに辿り着いたそのとき、

まだ手のひらに孤独があったら、わたしと"約束"してくれますか?

春が咲いて、夏が踊って、秋が歌う。冬のあくびでまた春へ。

巡る季節の輪の中で、あなたと歌った。

――ルル タラリラ、トゥリルラ……

思い出のひとつひとつが花火みたいに、わたしの夜を小さく照らす。

「あの星にぼくたちの名前を付けよう」なんて子供じみた慰めに、私はたしかに支えられていた。……認めたくはないけれど。

そんな甘やかなつながりも、やがて重荷になった。

だからなにもかも手放そうと決めたんだったよね。

いつからかわたしたちは、しあわせの対価にすり減っていった。

素敵な思い出をいっぱいに抱えたままの、袋小路。

さよならが必要なこともある。

さよならが必要なこともある。

そうしてわたしたちは別の旅路へ。

差し出してはすり減った心を時が癒してくれるころ、

まだ手のひらに愛があったら、"約束"を破ってくれますか?

小指を結んで、離さないように。

魔法が解けていく。

まだ手のひらがあたたかかったら、わたしと約束してくれますか?

春が咲いて、夏が踊って、秋が歌う。冬のあくびでまた春へ。

巡る季節の輪の中で、あなたなしでも歌っている。

羽ペンを手に取って頁を埋めていく。

――トゥリル タリラ……

これは月の裏側の物語。

@quale
私のクオリア