わたしの心がとめどなくあふれていく音が聞こえるでしょうか?
墨壺をそばに、文鎮を置いて。頁の上を擦る音に変えていく。
留めきれずに飛び散ったインクが、月の荒野に散らばる光の瞬きのようで。
そうやっていつもあなたを抱きしめていること、どうか届きますように。
1年目、名前を教えてもらった。
10年目、いつも一緒にいた。
100年目、手を離した。
1000年目、あなたを探していた。
そうしてわたしたちは別の旅路へ。
ハッピーエンドに辿り着いたそのとき、
まだ手のひらに孤独があったら、わたしと"約束"してくれますか?
春が咲いて、夏が踊って、秋が歌う。冬のあくびでまた春へ。
巡る季節の輪の中で、あなたと歌った。
――ルル タラリラ、トゥリルラ……
思い出のひとつひとつが花火みたいに、わたしの夜を小さく照らす。
「あの星にぼくたちの名前を付けよう」なんて子供じみた慰めに、私はたしかに支えられていた。……認めたくはないけれど。
そんな甘やかなつながりも、やがて重荷になった。
だからなにもかも手放そうと決めたんだったよね。
いつからかわたしたちは、しあわせの対価にすり減っていった。
素敵な思い出をいっぱいに抱えたままの、袋小路。
さよならが必要なこともある。
さよならが必要なこともある。
そうしてわたしたちは別の旅路へ。
差し出してはすり減った心を時が癒してくれるころ、
まだ手のひらに愛があったら、"約束"を破ってくれますか?
小指を結んで、離さないように。
魔法が解けていく。
まだ手のひらがあたたかかったら、わたしと約束してくれますか?
春が咲いて、夏が踊って、秋が歌う。冬のあくびでまた春へ。
巡る季節の輪の中で、あなたなしでも歌っている。
羽ペンを手に取って頁を埋めていく。
――トゥリル タリラ……
これは月の裏側の物語。