「行けるか?」
「うん」
簡単に身支度を整え、セナが用意した携帯食を食べ、火を起こした跡を土で埋めて、今日も出発しようという時になり、二人は立って向かいあっていた。
行けるかと訊いておきながら、佑はなかなか歩き出そうとしなかった。セナの顔を見つめて何か考えているような表情のまま動かなかった。
「……どうかした?」
「ここも、明るくなったらわりといい景色の場所だと思うんだが……」
佑は背負っていた荷物をまた地面に下ろし、その中から何かを手で包みこんで取り出した。それからまた立ち上がり、セナに向きあった。
「――始めてもいいか?」
「え……」
「これを」
佑は手を差し出した。
握られた紐から下がっていたのは、昨夜セナが預けた木の小箱だった。
「改めて……受け取ってくれるか」
同じものだとすぐにわかったが、外見が昨夜までとはまるで違っていた。てのひらの窪みに載るほどの小さな箱に、細かく彫った装飾が表れていた。
「可愛い」
セナは思わず指先でそれに触れた。
彫りは六つの面すべてに施されていて、しかもどれ一つ同じ模様がなかった。花、鳥、木、それぞれの図が信じられないほどの細やかさでごく小さな木の上に描かれている。
「あなたがこれを?」
セナが見上げて尋ねると、佑は無言でうなずいた。珍しく笑顔は消えて、心なしか緊張しているような表情だった。
「小刀の先で彫った。急に思いついたから考えるのも作りこむのも時間がなかったけど」
「すごく可愛い」