王妃の話1

木津川結
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 あの人の話を聞きたいの?

 そう。ずいぶん久しぶりだわ。あの人のことを聞かせてもらいにわたしのところへ来る者は。

 わたしが王妃になったばかりのころは、毎日のように尋ねられたものだったのに。

 あの人はやはり、世間で噂されていたような残忍な王だったのか?

 あなたの弟君たちを亡き者にしたというのは本当なのか?

 自分の王妃までもを毒殺したというのは?

 その後、姪であるあなたを妃に迎えようとしたということも?

 あれから長い月日が経って、あの人のことを話題にする者はほとんどいなくなったわね。

 あの人が酷い王であろうと、なかろうと、いま王位についているのはわたしの夫。そのあとを継ぐのはたぶん息子。この事実にみんな慣れてしまって、夫があの人を王位から退けたのは正当な行為だったのか、あの人が受けるにふさわしい当然の報いだったのか、そんなことを議論する必要を感じなくなったのでしょうね。

 生前のあの人のことを知る人間は、この国でもごくわずかな数となってしまったわ。

 ひょっとして、だからあなたはわたしのところへ来たのかしら。あの人の話を聞けるうちに聞いておきたいと思ったから?

 いいわ、話してあげましょう。

 あなたの聞きたい話になるのかどうかはわからないけれど。

@quitecontrary
小説の下書きのようなもの lit.link/kizugawayui