あの人の話を聞きたいの?
そう。ずいぶん久しぶりだわ。あの人のことを聞かせてもらいにわたしのところへ来る者は。
わたしが王妃になったばかりのころは、毎日のように尋ねられたものだったのに。
あの人はやはり、世間で噂されていたような残忍な王だったのか?
あなたの弟君たちを亡き者にしたというのは本当なのか?
自分の王妃までもを毒殺したというのは?
その後、姪であるあなたを妃に迎えようとしたということも?
あれから長い月日が経って、あの人のことを話題にする者はほとんどいなくなったわね。
あの人が酷い王であろうと、なかろうと、いま王位についているのはわたしの夫。そのあとを継ぐのはたぶん息子。この事実にみんな慣れてしまって、夫があの人を王位から退けたのは正当な行為だったのか、あの人が受けるにふさわしい当然の報いだったのか、そんなことを議論する必要を感じなくなったのでしょうね。
生前のあの人のことを知る人間は、この国でもごくわずかな数となってしまったわ。
ひょっとして、だからあなたはわたしのところへ来たのかしら。あの人の話を聞けるうちに聞いておきたいと思ったから?
いいわ、話してあげましょう。
あなたの聞きたい話になるのかどうかはわからないけれど。