「本当にそれでいいのか?」
「これがいい」
セナはうなずいた。首から下げた小箱を握りしめながら。
二日目も野宿となった晩、二人が話しているのは、求婚の際に男が女に贈るという品物のことだった。佑が育った西のほうの風習だという。
セナはこの小箱をもらったと思っていたのだが、佑は暮らしが落ち着いたら改めて何かを用意しようと思っていたらしい。何かほしいものはあるかと訊かれ、セナは首を振るしかなかった。ほしいものがないというより、この小箱こそを出会いのしるしに持っていたかった。
「返したほうがいいのか?」
一度は捨ててくれと言われたくらいだから、自分が持っていても問題はないだろうと思ったが、偽物とは言え帝の宝珠が入っていると言われたものだ。佑にというより帝の軍にやはり返さなければならないのだろうか。
「そういうわけじゃないが」
佑は曖昧に答え、セナの手もとを横目で見た。
「もっと、他に何かあるだろうと思ったんだけどな」
「何か?」
「首飾りとか――そういう素っ気ないのじゃなくて、綺麗な石で作ったようなやつだ。あとは、櫛とか、帯なんかを選ぶことが多いと聞いたことがある」
「わたしはこれがいい」
セナは再び言った。胸と鳩尾の間に来ている小箱を両手の指でそっと撫でる。
この箱と中に入っていた石は、佑が自分の素性をセナに打ち明けてくれた証だ。大切にされてきた宝玉ではなく、セナと同じ爪弾きにされた石くれだった、そのことを明かした上で一緒に来るか否かセナに選ばせてくれたのだ。
木でできた小箱を紐で吊っただけの、何の飾りも彩りもないものでも、セナには佑そのもののように愛おしかった。
「あなたも、これが求婚の贈り物だと思って渡してくれたんじゃなかったのか。そんなふうに言っていたのに」
「いや、あの時はふられたと思っていたから、捨ててほしいと言っただけだ。返されたものを自分が持っていても虚しくなるから、それが贈り物だったということにして――」
佑は言葉を止め、今度はセナの目を覗き込んだ。