王妃の話3

木津川結
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 あの人は若いころから、後に言われるような強欲で残忍な部分を見せていたと思う?

 それとも、そういうところを人に悟らせないために、うわべだけの善良さや愛嬌で取り繕っていたと思うかしら。

 がっかりさせるかも知れないけれど、事実はそのどちらでもなかった。

 つまらない人だったのよ、あの人は。いつも真面目くさった顔をして、冗談のひとつも言わないし、人の冗談にもめったに笑わなかった。愛想がなくて堅苦しくて、面白みのない人だなと子ども心に思ったわ。

 もうひとりの叔父のジョージのほうが、悪ふざけが好きでよく笑っていて、時にはそれが度を超していることもあったけれど、同じ場所にいてくれると楽しい人だった。

 あなたも知ってのとおり、ジョージは王になれるという話に目がくらんで、あっさりと父を裏切るのだけれど。

 そこからの話は詳しく言うまでもないでしょうね。父は王位を追われ、イングランドを出て大陸に亡命した。わたしは母や祖母と一緒に聖域に籠もって、父の帰りを待ち続けた。裏切り者の貴族や怖い王妃を打ち負かして、わたしたちのところへ帰ってきてくれると信じていた。

 事実そうなったわ。父が帰国して王位に帰り咲いたとき、わたしは五歳になっていて、母が聖域で産んだ弟ができていた。後にわずかな日数だけ王位につくエドワードよ。

 あら、なんだか退屈そうね、あの人がちっとも話に出てこないって?

 わたしも後になって知ったのよ、この時のあの人が、兄であり王であるわたしの父に忠誠を貫き、大陸への亡命にも付き従い、王位を取り戻すための戦いでも父のために功を上げていたことを。

「リチャードがいなければ、わたしは再び王になることはできなかった」

 帰ってきた父は、母やわたしたちの前で何度もそう口にしていたわ。

 苦難続きの亡命の旅でも、あの人がどんなに忍耐強かったか、若さに似合わずどんなに冷静だったか。その鋭い機転でどんなに父を助けてくれたか。初陣を飾った戦場でどんなに心強い働きを見せてくれたか。それらにもかかわらず、その献身のすべてはまるであたりまえだというような顔をして、父に何ひとつ求めず、ねだらず、無欲な態度を貫き通していたか。

@quitecontrary
小説の下書きのようなもの lit.link/kizugawayui