「イメージアップ戦略が不可欠だと思うのです」
エリザベスがあらたまった声で告げると、リチャードは読んでいた書物から顔を上げた。
部屋の中にはふたりの他に従僕と衛兵だけ。エリザベスは母から来た手紙のことをリチャードに報告し終えたところだ。
「急に何だ」
「陛下の治世について、わたしも自分なりにできることがないか考えました。思うに、陛下はご自分のイメージというものに無頓着すぎます。わたしの弟たちにまつわる悪い噂は放置して、わたしや母や妹たちに親切にしてくださっていることは広めようとなさらないでしょう。おかげでロンドンの、いいえ、イングランド中の民が陛下のことを誤解しています」
「誤解させておけばいいだろう」
エリザベスは深くため息をつくと、椅子から腰を上げてリチャードのいる執務机の前まで歩いた。
「これをご覧になって」
手にしていたタブレット端末をリチャードの前に差し出す。
そこにはひとつのSNSアカウントのホーム画面が表示されていた。アイコンは赤き竜。プロフィールには『ランカスター家の正統の後継者、アーサー王の血を引く者。イングランド上陸を目指して仲間を集めています』とある。
エリザベスは指を動かして、いくつかの投稿をリチャードに見せた。
『無事にフランスに着きました。あのままブルターニュにいたら危ないところだった』
『ジャスパー叔父から久しぶりに手紙が届いた。私のために長年苦労をかけて本当に申し訳ない…悲願を達成したら最大の感謝と褒賞で報いよう』
『旅途中に出会った男がアーサー王の崇拝者で、夜通し飲んで語りあって楽しかった。推しの話してると時間があっという間に溶ける』
『今日、レンヌ大聖堂で王位継承とエリザベス王女との結婚を誓約しました。聖なる生誕日の誓いは必ず遠からぬうちに守ります。待っていてください、愛する祖国、そして愛する人』
去年のクリスマスの投稿まで遡って、エリザベスはようやくスワイプの指を止めた。