リチャードのいいところは、なんと言っても仕事熱心なところだ。毎日毎晩、一秒を惜しんでイングランドのために働いている。
そのことを知れば、リチャードを王位簒奪者などとと呼ぶSNSユーザーたちも、きっと考えを改めるはずだ。
「陛下は毎日、今日は何をした、どこへ行った、誰と話した、ということを、淡々と書いて公表してください」
「それだけでいいのか」
「それだけでいいのです。できるだけ細かく具体的に、陛下の毎日のお姿をユーザーたちに見てもらうようなおつもりで。もちろん、守らなければならない機密事項は伏せてけっこうです」
事実をそのまま書くだけだから、下手な脚色はいらないしSNS受けを気にしなくてもいい。他のアカウントと絡みに行く必要もない。リチャードにぴったりの運用法を考えたと我ながら思う。
「ただし、投稿は一日たりとも欠かさないようにしてくださいね。この手法のアカウントは毎日続けることが大切です。そして、一日でも空けると何かあったのかと詮索されますから」
「そうか」
リチャードは素直に姪の言葉にうなずいている。思ったほどややこしいことをせずに済みそうで安心しているのかも知れない。
「いつから始めればいい」
「陛下が良ければ今日からさっそく始めましょう。最初の投稿だけは短くてもけっこうですから挨拶文めいたものを書いていただけます? すぐにわたしのアカウントで拡散しますわ」
リチャードはうなずくと、タブレットの上ですばやく指先を動かした。
エリザベスが自分の端末に表示させていたホーム画面に、記念すべき最初の投稿が現れる。
『SNSはじめました。忠誠が我を縛る』
リチャードがSNSアカウントを始めてから一週間が過ぎた。
最初の投稿は瞬く間に拡散され、イングランドのみならず各国のユーザーたちをざわつかせ、ちょっとした旋風を巻き起こした。
『イングランド王がSNSはじめてる』
『本物?』
『甥殺しのあいつじゃん』
『SNSとかやらないキャラかと思った』
『ヘンリーさんといつ絡むか楽しみ』
反応はさまざまだがとにかく話題にはなった。エリザベスのもくろみどおりである。好意的であろうとそうでなかろうと、とにかく人々の興味関心を引けたのなら上出来だ。有名人のSNSは空気になることが何より恐ろしい。
なりすましを疑う声もちらほら見かけたが、エリザベスが呼びかけた廷臣たちが次々に拡散したこと、さらには各国の君主たちが意外にもすぐに反応をくれたことで、『本物っぽい』『ガチだった』との引用が溢れ、おかげで第二波とも呼ぶべき現象が起き、『リチャード三世』『イングランド王』『陛下のSNS』がトレンドに並んだ。